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川が好き。山も好き。
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7月号が届いておりますが、5月号を読みましょう。バスの中でも読むようにして、少し読み終えるのが早くなったのですが、アウトプットに時間がかかるのかなあ。敬称略です。

  落としたる飯一口を蹴り出して向かい席の足元へやる人のあり  藤井マサミ
 
 作者はその目で見てしまったのです、誰も見ていないと思って自分の小さな罪を他人になすり付ける卑しい行為を。自分の足元がきれいであれば他人などどうでもいいというさもしい心を。
 
  夫逝きて一週間の過ぎにけり二日ほど雪が朝に舞ひたり  亀山たま江

 挽歌の一連の一首目。静かに淡々と詠まれることで胸に迫りくるものがあります。深い喪失や現実の慌ただしい日々を振り返った時に、思い出されるのは雪のことだったりするのでしょう。

  沈む前の夕陽になって照らしたいあの日に立ちすくむ私のことを  小川和恵

 過去の自分を励ましたいという思い。エッセイに震災のことがあるけれども、「あの日」は3月11日ではなく、作者自身に何かあった日と読みたいのです。

  おばあさんなれども雛を飾りつつ夢色々と語り合いたり  西村清子 

 お雛様を飾るのにも、夢を語るのにも、年齢や性別の制限なんて本当はないのに。「おばあさんなれども」という断わりに謙虚さと切なさがにじみます。

  服はいつも来ているけれど今日はじめて着たような気分にもたまになる 平出奔

 そんな気分になることってあるのかなあと思いつつ、あるのかもしれない、と何か妙に納得させられるのは、「ような」とか「たまに」とか妙にぼかされているからなのか、結句の言いきりのためなのか。

  地震ののち歌会がありて楽しくて疲れてその夜十二時間眠る  三浦こうこ

 十二時間! 地震の不安や片付けで眠れなかったのが、楽しい時を過ごして気持ちがほどけたのでしょうか。「て」のくり返しからの結句の字余りもそのように詠ませます。

  保護者からの電話ようやく切りしのち伸びたる麺をこわごわ啜る  中村英俊

 この歌の数首前に<電話線を抜きたくなるを抑えつつ保護者の要望ハイハイと聞けり>という歌があり。要望を訴える方は、自分が相手の休憩・休日の時間を侵食している事実なんでお構いなしなのですね。

  「またおいで」と土産にくれし焼海苔の空缶が叔母の形見となりぬ  清水久美子

 焼海苔の、しかも空缶が形見として遺ったというところに、叔母さんの人となりや作者との関係性が見えて味わいを感じるのです、海苔だけに。

  本能寺に上司を討ちしドラマ見つさてとあしたも仕事へゆかな  垣野俊一郎

 仕事上の上司部下のしがらみは戦国時代も現代もどこか通じる部分があるのかもしれません。尤も「麒麟がくる」はそのように共感を誘うように描かれた、ということもあるのでしょう。

  来年は撒けるだろうかと思いつつ撒いたな豆を去年も今年も  石川泊子

 つぶやくような詠いぶりが印象的。とつとつした不思議な語順が、かえってリアルで切実な声のように伝わってきます。自身の病が、豆を撒いて外に出したい鬼であるような思いもあるのかもしれません。

  善光寺に慎み拾ふ菩提樹の仄あたたかき実のつぶらなり  飯島由利子

 善光寺の景色からカメラが寄ってゆくような歌の作りで、すべてが「つぶら」であることへの序詞のようになっているのがおもしろく思いました。

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おとも
性別:
女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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