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川が好き。山も好き。
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ワクチン接種に関する問い合わせの対応の仕事の求人メールが、この頃届きます。世の中の役に立ててやりがいがありそうですし、時給もなかなかに魅力的です。一方で、これは絶対に過酷だ……と、かつていくつかカスタマーセンター業務をしていた時の経験から想像がつきます。

 こういった問い合わせの窓口は、たいてい混み合っていてなかなかさくっとは繋がりません。なので繋がった途端に「なんで繋がらないんだ」というような苦言を言う人もいるでしょう。用件のみなら数分で終わるものを、繋がらないことへの苦言だけで何十分も話し続ける人も一定数はいるでしょう。
 繋がらないことへの苦言だけではなく、コロナウイルスに対する不安や、政府の政策に対する不満をぶつけてくる人もいるかもしれません。問い合わせから自身の病歴や家族のことなどの身の上話にすり替わってしまう人もいるでしょう。ニュースで聞くようなワクチン反対派から過激な電話がかかってくるかもしれません。
 対応が長引けば、他に電話をかけてくださっている人がその分ますます繋がらなくなるのですが、話し続ける人はそんな自分以外のことなんて知ったこっちゃないものです。本題ではない話だからといってぶった切ればクレームに発展することもあるし、気の済むまで相槌を打ちながら聞き続けます。
 もちろん、何かに巻き込まれなければ「ありがとうございます」「助かりました」とお礼を言ってもらえることは多いでしょうし、充足感も得られそうです。
 今の仕事が続いているので求人メールに返事をしたりはしませんが、いろいろ想像したり思い出したりしました。

 たとえば、何か使っている製品が壊れた時に、「こうすれば直りますよ」「新しいものを送りますよ」というような解決策より、壊れて困ったという自分の気持ちを聞いてほしいという人が、割と多くいらっしゃるような気がしました。壊れてしまってどれくらい困っているか、普段はこの製品を使ってどのようなことをしているか、何月何日に誰々が来るので何をどうするつもりだったか、近所の人はどうしているか、昨日はこんなことなかったんです、急に壊れたんです、だからとても困ってるんです、困ってるんです。くり返される訴えの隙を突いて、右上のランプは点いてますか? 真ん中のボタンを押してみていただけますか? というようなことを伝えて、なんとかなんとか話を軌道に乗せていた日々でした。

 「それは困ったことですね」「大変でしたね」「びっくりしましたね」、そのような共感の言葉は、相手が自分の生活には関わってこない電話越しの顔の見えない他人だからこそ遠慮なく求めることができるのかもしれません。受話器を持つ前に、受話器を置いた後に、その人にはどんな暮らしがあるのでしょう。もしかしたら、それはとても寂しいもののような気もするのでした。

  「申し訳ございません」を今日何度言っただろうか機械のように   『にず』

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HN:
おとも
性別:
女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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