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川が好き。山も好き。
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夏が終わりそうで終わらないです。塔7月号を読みます、敬称略です。

  染めをやめ真白となれる母の髪エリザベス女王みたいと褒めおく  小林信也

 お母様世代の方の気分を良くさせるための言葉としてなにかとても納得ができて、目に浮かぶようなのでした。わたしの祖母もなんでもかんでも天皇陛下みたいと褒めるのでした。

  どくだみの匂ひが好きという吾子をまた好きになる帰り道なり  澤村斉美

 小さいお子さんを、一人の人間として親しむような距離感。「どくだみ」の濁音と他の言葉の軽やかさ、声に出して読むと気持ち良いです。カ行の響きがいいのかなあ。

  盗み見すまだ畝のみの畑の中さかりの猫がもつれあへるを  篠野京

 印象的な初句切れ。春の風物詩ですが、わざわざ盗み見するからかえって見てはいけない状況のようで、作者もあやしい行動をしているようで、なにかおかしみが感じられるのです。

  車椅子が壁につけたるキズ跡に添ふやうにして車椅子置く  浜崎純江

 淡々とした詠いぶりからにじみ出るものがあって泣きたいような気持ちになります。挽歌の一連の中で読むと詳しい背景がわかりますが、単体でもとても伝わってくる歌。

  夢の中母と私はバスを待つ日に二本しか走らぬバスを  北山順子

 夢の歌だけれども、妙にリアルで、なにか暗示的。これまでのお母様の歌と併せて読んで沁みてくるものもあります。バスが来る前に夢は終ったのでしょうか。

  願いごとないままに手を合わせれば山鳩やけに長く鳴きいる  池田行謙

 願いごとがない、ということにまず驚きました。その場のしきたりに従い目を閉じて手を合わせながらも、無の心に、より山鳩の声は沁み入ってきたのでしょう。
 
  会うことの難しければ誰でもよい人を眺めに公園に行く  今井眞知子
 
 「誰でもよい」という切羽詰まった思いが歌の真ん中にあって切実さを感じます。「人」はもはや会う対象ではなく「眺める」ものになってしまって。

  腕を前から上にあげつつ走りきてラジオ体操の輪におさまりぬ  垣野俊一郎

 背伸び運動に遅刻しかけたのが作者か別の人かはわからないけれど、体操をしながら走ってくる光景がコミカルで、その妙なまじめな人柄にも味わいを感じました。

  残業は嫌いではないあの人が定時で帰る日は特に好き  小川さこ

 結局、働きやすさとは人間関係の良し悪しなのです、よくわかります。定型にきっちりはまってるのが内容に合っていて小気味良いです。

  生き物のように重たい大福を持つとうれしい 豆も入ってる  渋川珠子

 大福のことしか言っていなくて、しかも食べる前の、ということがなにかおもしろくて、結句も一字空けてまで言うことなのか、なんとも不思議な歌で印象に残りました。

 特集「感染症と短歌」、評論もレポートも充実していて興味深く拝読しました。短歌の記録性をあらためて大切にしたいと思いました。

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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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