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川が好き。山も好き。
乱切りにした古川なすを水に浸して
灰汁抜きをした後
片栗粉をまぶして油で揚げる。
揚がったら鍋に移して割下で煮る。
割下は自分で作ってもいいのだけれど
面倒なのと美味しいのとで
この頃はもっぱらヤマサの昆布つゆ。
常備しているおろし生姜チューブも搾り出す。
なすにはたいた片栗粉のおかげで
揚げるときは型崩れを防ぎ
煮るときにはとろみがついて
一手間かけた甲斐があった。
安売りで量も多かったので
三食で食べても完食には三日はかかるだろう。
保存パックで冷凍していたご飯を温め
冷蔵庫から秋刀魚を取り出す。
昨日に刺身で買ったものの
一時に食べきれず
生のままでは痛むので火を通しておいた。
今日の弁当用に焼いた
チーズオムレツの残りもあったので
明日まで置くのもなんだし
夕餉に食べてしまうことにする。

一メートル先のテレビを見ながら
部屋の真ん中のテーブルで食事をする。
格別美味しいわけでも
手の込んだわけでもないものの
それなりに舌も腹も満たされる。
できれば汁物も欲しいところだけれど
コンロが一つしかないから
おかずついでには作れないし
一杯分だけわざわざ作るほどでもない。
食後のコーヒーは一杯分だけドリップする。
テレビのチャンネルをころころ変える。
忘れた頃に食器を洗う。
「ごちそうさま」と「お粗末さま」は
忘れたわけでなく言ってない。

***

 2008年の詩。一人暮らしを始めた1999年から2009年までのこうした生活を、こうした詩を、わたしは今、当時よりさびしく思うのでした。なんにも知らない、それでもこうして生きてゆくほかない、狭くて小さな20代でした。

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 実家がら宅急便で野菜が届いだ
 人参ば包んであっけ広告の裏さ
 なにが書いであるなぁって見でみだら
 「山に草取りに行きます」
 下手くそなばあちゃんの字

 そういえば昔
 ランドセルしょって家さ帰っど
 机の上さ置いであっけ
 「ばあちゃんより
 とだなにあります。
 ます。さつまいもが
 はたけに行ってまいり
 ばあちゃんは
 ともみへ」
 変な文だにゃあーって
 友達と何度も読んで笑たっけ

 現代の子供だは
 携帯電話ですぐ連絡がとるいがら
 置ぎ手紙あて
 知ゃねんだべな
 字もろぐにわがんねばあちゃんが
 誰も居ね家さ帰て来るわたし宛でに
 一生懸命書いだ
 左がら読む縦書ぎの文あて
 知ゃねんだべな

 ほだなごどば考えだら
 偶然まぎれ込んだだげの
 さっきまで人参ば包んでだけ広告が
 宝物みだいに見えできて
 投げねでとっておぐごどにしたんだは


***

 サンリオ『詩とメルヘン』2002年1月号方言詩のコーナー掲載作でした。
 やなせたかし先生はわたしの恩人です。昔、どうしようもなかった頃、『詩とメルヘン』に詩を掲載していただいて、評をいただいて、わたしも捨てたもんじゃないなって、心が救われました。
 『詩とメルヘン』には3回掲載していただき、原稿料というものもいただきました。お知らせの、キティーちゃんの描かれたサンリオの封筒は、あれから10年以上経った今でも捨てられません。
 思えば、短歌をはじめたきっかけの一つとして、『詩とメルヘン』で目にした東直子さんや植松大雄さんの特集で短歌に惹かれたから、というのもあります。
 相変わらずわたしはどうしようもなくて、初めて雑誌に自分の言葉を載せていただいたこの頃より全然進んでいなくて、それでも、やなせ先生に詩を選んでもらえたということは、わたしの人生の中できらりと光る勲章なのです。感謝してもしきれないです。ご冥福をお祈りします。

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  今頃わたしの田舎では
  小金の色の稲の穂を
  家族みんなで刈っている
  背中を丸めて刈っている
  朝から晩まで汗流し
  お茶とお菓子とおにぎりで
  お昼になったら一休み
  周りの田んぼを見渡せば
  同じような家族が三つ
  家に帰れば夕飯は
  イナゴの佃煮 タニシ汁
  昔ながらのわが家の
  当たり前の秋の日を
  今年は離れて一人きり
  昨日のスーパーの特売の
  産まれのしめじで
  炊き込みご飯を炊きながら
  遠く思う
  そんな秋の日

***

 詩とメルヘン2002年10月号に掲載していただいた詩でした。この頃はまだ短歌を詠んではいないのに七五調なんだな。
 今はもう家族で稲刈りをすることもなく、懐かしい話になりました。
  

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プロフィール
HN:
おとも
性別:
女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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