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川が好き。山も好き。
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あああ8月になってしまいました。6月号を読みます。

  山の下りは走っておりた四人家族そんな元気な遠い日のこと  角田恒子

 登山か、山の方に家があったのでしょうか。いくら下りで上りより楽とはいえ、ほんとうに元気。過去形のためか、家族四人が元気に山を走っている光景を思い浮かべると、なんだか泣きたいような気持になりました。

  おばあさんがぶらんこしてると言われたりあぁ私はおばあさん  林田幸 

 少女のような心地でぶらんこに乗っていたら、無邪気な声に見つかってしまったのですね。他人に指摘されるとあらためて自覚させられる感じでしょうか。「あぁ」の小さい「ぁ」が視覚的にも効いていて、結句の字足らずも力が抜けるようです。

  幼き日インコを葬りし庭先を不動産会社が明日買いに来る  大江いくの 

 子供の頃の思い出が眠る庭を手放す時。三十一文字なのに文字数以上の物語が見えるようです。一首の中でこんなに長い時間とドラマを詠えるのだなあ。買い取る側からしたら骨が出てきたら少しホラーかも。

  むずむずと気孔をひらく山毛欅の森こころのように春がざわめく  星野綾香

  風炎集「春のざわめき」から。震災が背景にあるからこそ春の描写の沁みる一連でした。この歌は下の句の比喩にとても惹かれました。「~のようなこころ」というのはよく聞きますが、逆はめずらしい。そして妙に納得させられてしまいます。

  五画目を書くまではまだわからない 春だと思う? 寿司だと思う?  拝田啓佑 

 正解はどうでもよくて、この会話や、会話の相手とのじゃれ合い感を味わう歌なのでしょう。独り言の可能性もないわけではないですが。「春」と「寿司」の取り合わせも良くて、特に「寿司」に人間臭さを感じます。

  よき人は逝くほんとうにやさしいよき人は逝くのだ妹よ妹よ  松浦哲
 
 涙でぐしゃぐしゃになっているような詠いぶり。整えようとすれば整えられそうですが、このままがきっといいのでしょう。「よき」なので「やさしき」でなくてもいいのかとか気になったりもしますが、結句のリフレインとか、もうたまらないのでした。
 
  「ほいじゃあねー」と祖母はいつも手を振った ほいじゃあねーで棺桶を閉ず  瀧川和磨 

 他の歌から挽歌だというのはわかるのですが、それでも和やかな雰囲気からの結句でびっくりしてしまう。最期のお別れもいつもと同じように、ということでしょうか。方言がいいなと思いました。

  娘婿の送りの車の早く着き一本前の電車に乗れり  平田優子 

 お嬢様の婚家に赴いたところ、帰りにお婿様が駅まで送ってくれたという、そのままの歌だと思うのですが、こういう些細なところで立ち止まって歌に詠めるのがいいなあ。一本前の電車の電車に乗れるというささやかな喜び。良好な関係性もうかがえます。

  六十年経ちて黄ばみし家計簿は花十円で始まりており  清水千登世

 新生活が始まって一番最初の支出が花だということがすてき。当時の物価で十円の花がどれくらいなのかはよくわかりませんが、十円というささやかさもいいです。贈り物というよりは、自分の暮らしを彩るための花と読みました。 

  サビじゃないところはじめて聴いたけどやっぱお前の好きそうな曲  長谷川麟 

 「やっぱ」というほど相手の好みのをわかっているという関係性。口語体も歌の内容に合っています。おそらく作者はこういう曲が好きではないのでこれまでサビしか聴いたことがなかったのだと思いますが、他のメロディに対してこういう思いを持つこと、歌に詠むことが美しいなと思いました。うまく言えないのですが。

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自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
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