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川が好き。山も好き。
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9月号が届く前に7月号を読みましょう。塔新人賞・塔短歌会賞もとても良かったです。敬称略です。

  描きしのちママレードにする夏蜜柑皮の厚さがまこと頼もし  石井夢津子

 絵に描いた後にジャムにして、そしてこうして歌にもなる夏蜜柑の皮なのです。本当に頼もしい。物を大切に無駄なく使うのが素晴らしいです。

  父九十、母八十八、叔母八十七、三人揃つて冬を越えたり  豊島ゆきこ

 この歌はなんといっても「叔母」の登場に奥行きを感じます。老夫婦の冬に、そのどちらかの妹一人の加わる事情など、書かれていないところでいろいろな背景があるのでしょう。

  子育ては楽しいですか幾たびもアンケートにははいと答える  矢澤麻子

 風炎集の「青鷺」から。六歳、二歳、十二歳の登場する子育ての連作。お子さんの分だけアンケートの機会も多いのでしょうけれど、こういう質問があるということに、「楽しくない」と答える人もいるのだという事実が浮かび上がり、様々な社会問題なども想起されるのでした。

  とむらいの旅の帰りは菜の花も桜も富士も全部悲しい  加藤武朗

  お友達への挽歌の一連から。明るく色彩豊かな春の景色が映像として浮かんだ後に、じわじわ滲んでゆくような読後感です。

  母と寝る権利を求め争いて敗れし下の子我と寝るなり  井上雅史

 結句まで読んで露わになる家庭内の上下関係が悲しくも可笑しい。「権利」など硬い言葉や文語で仰々しく詠まれているからこそ、なおさら。

  この街で南を向けば見える山 鼓ヶ岳がわたしのふるさと  櫻井ふさ

 この街で何かつらいことがあっても、南を向けば見えるふるさとの山を心の拠りどころにして生きてきたのでしょう。固有名詞も効いています。啄木よろしくふるさとの山はありがたいのです。

  痛む背に夫の指が行き来してそのあとすうつと睡りに落ちぬ  石川泊子

 痛いの痛いの飛んでけ~みたいなことでしょうか。安心感が伝わります。そしてどことなく官能的。「手」ではなく「指」だからかも。

  扉を叩く老人たちは開店を今より早くしろと言いたり  大橋春人

 開店を早くするためには、従業員の労働時間が長くなるなど負担を増やさなければいけないのですが、お客様は自分の都合しか考えてないのでしょう。扉を叩く行為や命令形の物言いに、自己中心的さが伝わります。カスタマーハラスメント。

  本当は抱きしめたきを孫四人の父方の祖母にゆづりて眺む  栗栖優子

 こんなに自制の効いて切ない孫歌は初めて読んだような気がします。心のままに抱きしめてもいいんじゃないかと思ってしまいますが、家と家とのお付き合いで立場などいろいろあるのでしょうね。

  広島平和記念資料館本館にリニューアルオープンとふ明るき響き  永山凌平

  内容にもハッとしますし、漢字の羅列の後にカタカナという字面が効いていると思いました。声に出して読んでも「ニュ」「ー」「プ」などの響きは特に明るくて。

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おとも
性別:
女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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