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川が好き。山も好き。
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  浮かんでは消えゆく言葉言葉ほどあてにならないものもなくって

  言葉ほどあてにならないものもなくそれでも言えばよかった言葉

  素直にはなれないことは嘘吐きということ自分の言葉がこわい

  しあわせな時は素直にしあわせな歌を詠みなよ過去のわたしよ

  ひとりごとがほんとうにひとりごとならば言葉はさびしい各駅停車


***

 五首目の歌を、百葉集に載せていただきました。百葉集に載せていただいたのは初めてです。うれしいです。
 
 歌を詠んだ、というより、気持ちを五七五七七に当てはめた、といった感じで、くるしい。

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  酔ったらばあらわれるという正体を酔えないゆえに一生知れず

  酔えもせず吐いてしまいぬああわたしどこへも逃げる場所がなくって

  震災の前に誰かが置いてった梅酒ふた瓶まだ手をつけず

  溺れたりきっとするから前もって酒の飲めないわたしと思う

  人生はなぞらなくてもいい幾ら石垣りんが好きだからって

  過去のことばかり綴ってある日記たしかにわたしが書いたのだけど

  バスのなか角田光代を読みており明日は予定のない日曜日

***

 先々月、先月に続き、今月も新樹集に載せていただきました。なんだかほんとうにありがたいです。以降は欠詠が続くのだけれど。

 選歌後記で、石垣りんは働きながら詩を書いた人である、というような説明があり、五首目の歌が働きながら詩を書きたくない、というように読めてしまうかも。確かに定年まで勤め上げた詩人だけれど、そんなふうに一つの仕事を慎ましやかに続けられたことは、むしろあこがれ。わたしにとって石垣りんの印象で大きいのは、(意思を持って)生涯独身を通した、というところ。わたしは長いこと恋愛に抵抗感があって、以前のそうした頑なな心を悔いているのでした。今はもう、素直にしあわせになってゆきたいと思うのです。

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神様を信じていないわれなれば「おかあさーん」って泣くほかはなく

  川の字の真ん中で眠りたくなって高速バスに乗り込む夕べ

  父が日記見せてくれたり声にせぬ仕事の愚痴が並びておりぬ

  チクショーと父が叫ぶを聞いたことなし日記には何度書かれど

  もう母も父も故郷も悪者にしない川の字の真ん中に居て
 
  深夜二時川の字の中を抜け出して子供に戻れぬ身を自室へと

  つらくない仕事はないしつらくない大人もいない日記を閉じる

  歩道橋を慣れない靴で渡りおり これでよかったこれでよかった

***

 先月に続き、今月の新樹集に載せていただきました。入会から一年で三度も新樹集に載せていただけるなんて、ありがたいです。
 
 しあわせな歌を詠いたい。しあわせな歌を詠えるような人生を送りたい。歌は褒めてもらえなくていいから。正直なところ、「これでよかった」とは思えていない。

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なぐさめるふりしてなぐさめられに行く袋ラーメン三つ携え

  助手席と運転席の真ん中にいつもちょこんといるマルチーズ

  寄る辺ないお茶の間に居てなまぬるい犬の舌をもゆるしてしまう

  痩せたよね痩せましたよね食べなきゃね一人でないから進む夕飯

  犬くさくなって帰りぬ犬を抱くやすらぎをこの身に覚えれば

  大切な友なればこそこれ以上かけ込み寺にしちゃいけないね

***

 新樹集に載せていただきました。ありがたいです。もっと明るくてしあわせな歌が詠みたいとは思うのだけれど。
 年鑑回顧座談会にて宮地さんに取り上げていただけたのもうれしかったです。

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縦に割り肉を詰めたるピーマンの二つになるを一人で食みおり

  そろばんの先生はもうそろばんを教えてなくて農家でパート

  故郷のなすときゅうりにベランダのしそを刻んでだし作りおり

  震災ののち関東の子の元へ引き取られてくお年寄り達

  山形のだしは家庭の味にして我が家のほかの味はわからず

  薄い壁越しに花火の音を聴き裸でそうめん茹でる 一人だ

  新しいアドレス帳に移さない去年花火を共に見た人

  後ろ髪自分で切って失敗しても結わえてしまえば誰も気づかず

***

 こういう短歌を自分らしいと思っていて、自分の中のこういう感性を守りたい、自分の心が変わってゆくのがこわい、と思っていた頃がある。今はもう、短歌より、変わりゆくわたし自身を大切にしたい。そうして、あたらしい短歌を詠みたい。
 
***

拍手お返事はつづきからご覧ください。

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  野原 シロツメクサ匂うのどかなる野原 あの日の津波知らねば

  愛される予感もなくてベランダの検査もしないネギを食みおり

  戦争を大震災に置き換えて『東京物語』リメイクされたり

  避難所へ持ち込むときに名を書いたタオルケットで今夏も眠る

***

 震災は終わったことでなく、今も続いていること。遠くなってゆくのが、どこかこわい。震災によって変わってしまったものが、震災前から変わらなかったもののように錯覚してしまいそうで。

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  長椅子で「絵本読んで」とねだる子のリュックに御守り三つ揺れおり

  幼子は守られており御守りを贈った大人等のまなざしに

  二年前の火傷のあとはもう消えてしまった あんな赤かったのに

  触れもせず診察は終え鋏にて切り取られたる皮膚の一片

  肌と呼べば月夜の匂いするものを皮膚と呼びては温度をなくす

  細胞は半年すれば変わりきり去年のわたしどこへもおらず


***

 皮膚に不調があり、以前に火傷の処置で通った皮膚科へ再び訪れた際に。かつて同じ待合室で読んだ借り物の詩集のことなど思い出しつつ。

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駅のない故郷ゆえに隣町まで父母の車を呼びぬ

  いもうとの名で叔母の名で呼ばれおり隣近所の人に会う度

  心病むおとうとなれば呪術めく言葉で飯の注文しおり

  木づちにて魚の骨をくだいては犬に与えて怒られる祖母
 
  ふるさとを見せてみたいと思うひともいたりなんにもない町だけど

  駅のない故郷ゆえに二十年のちの帰り方など知らず

***

 六首目の歌を、選歌後記に取り上げていただきました。「二十年のち、(略)、故郷そのものを喪失してしまうかもしれない」……そこまでは考えていなかったので、どきりとしました。ほんとうに、二十年のちはどうなっているのでしょう、故郷は、わたしは。
 
  帰省して黒字になってしまいたり祖母が「内緒」と小遣いくれて

 この歌は六月東北集会歌会記から。「上手い、と好評な一首」などと書いていただけてありがたいのだけど、実は今号の月詠に提出していた十首のうちの一首で、月詠では六首掲載で落とされてるんだなー…。選歌、奥が深いです。

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  早退をして(させられて)婦人科の待ち合い室のソファーが広い

  ターコイズブルーのマタニティドレス(たぶん年下)入れ違いたり

  生まなかった(つくらなかった)子がじきに二歳になると数えてみたり

  地蔵かと寄ってみたれば金剛夜叉明王あかい前掛けをして

  でも今の仕事に就けた時やっと普通になれる気がしていたの

***

 会社早退してひと思いに詠んだ気がする、この頃。地蔵の歌は全く別件の古いものだったのだけれど、この流れに入れてみるのもいいかな、と。

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「主婦暦もないくせに」って言われてることは知りつつ調理場に立つ

  いもうとに先を越された不憫なる姉をことさら演じていたり

  またひとり未婚女性が辞めてゆき溜め息と漏れ聴こえる笑い

  子供部屋むすめ二人が家を出ていつまで子供部屋なんだろう

  「おかわり」が「愛してるよ」に聴こえた日遠くなりけり箸の転がる

  トイレから犬の散歩からゴミ捨て場からわたしに電話かけくる父よ

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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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