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川が好き。山も好き。
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赤子なるいもうとの子と話す時のわれの一人称の「伯母ちゃん」

  年上の義弟とわたしの真ん中で妹は授乳はじめる居間に

  逢引きの誘いを蹴って歌会へと向かうわたしよ 行き遅れるな

  わたしには歌しかあらず歌のみにすがりついてた日々もありたり

  二十時の学童保育こうこうとボール遊びをする子らが見ゆ

  「妊娠の可能性は」「ないです」の会話ののちに行う検査

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新しい恋を始めた後輩を祝いそれから延期の女子会

  ペットロス克服のため飼われたる死んだ小犬と似たような小犬

  われの産む子は平成のその次の世の子か南に旅の宿とる

  心病むおとうとを持つ姉であることも一人っ子の友は羨む

  雌と決め犬飼い続く友なりき避妊手術はさせず、生ませず

  心病むおとうとの持つ遺伝子の森深くわれは子を生まぬなり


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くたびれたペタンコ靴で踏みしめてゆく駅までの道や暮らしや

  ひもすがら蛍光灯をひからせてオフィスオフィスとにぎやかなりき

  凌様と名を打つ時は凌辱と打って一文字消し入力す

  函館への旅の約束いつしらに流れてゆけり握り飯食む

  駅前のスターバックス四階に心療内科とろりとありぬ

***

 函館、行きたかった…。今の職場の休憩室の大きな窓からは、函館へ向かう新幹線が見えるのです。

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また家が壊されている十五年わたしが通った道だ、一人で

  余震なり臨時ニュースの声も灯も揺れ湯あがりの身は冷えてゆく

  この部屋を出たいけれども ベランダの鉢に大葉の種を植えたり

  「大安だー」と祖母はよろこぶ初めてのデイサービスに赴ける日を

  牛乳を買いに自転車走らせるわたしの肩にてんとう虫は

***

 今月号の「特集 マンガと短歌」にもエッセイと短歌を載せていただきました。漫画にまつわる、活字にはなってなかった短歌があり、過去作なので今さら月詠に出す感じでもなくて、でも思い入れのある一首だったので、こうした機会があってよかったです。皆さんのエッセイも愛にあふれて楽しく読みました。
 選歌欄評で、川上さんにほうれい線の歌の評をいただきました。思いのほか寄り添って読んでいただきありがたいです。

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右の窓に千本桜映りおればみな右を向く満員電車

  二本松高村智恵子記念館お手洗い場のレモン石鹸

  さくらさくら愛想悪さで名の知れたとんかつ屋さんの一本ざくら

  九州へ向かう自衛隊とすれ違う東北道のサービスエリア

  被災地と呼ばれる土地と被災者と呼ばれる人が増えゆく四月

  九州の震える夜に一人きりさまよえる5年前のわたしがおるらん

***

 レモン石鹸、わたしは『智恵子抄』の「レモン哀歌」にちなんで置いてあるのかと思い、歌会や今月号の選歌後記でもそう読まれているのですが、単に安いとか物品購入などの都合ではという話も聞き、謎なのです。

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地下鉄の窓に映れるわたくしのほうれい線よ三月四日

  誰の手でもいいわけじゃない誰かの手を握りたいのは確かだけれど

  ヘリコプターの音ひびきおり五年目の三月十一日仙台の朝

  捜されている人がいて一人暮らしのわたしは一人部屋片付ける

  五年目の三月十一日ゴミ出しを済ませひねもすテレビを見てた

  異常無しと診断されるばかりなり震災より続く月経不順

  忘れるという復興もありましょう わたしは忘れ生きてゆきます

***

 江戸雪選歌欄評、わたしの担当は今月号までです。評を書くにあたり自分で決めていたことが二つありました。一つは「作中主体」「主体」という言葉を使わずに、「作者」と言い張ること。もう一つは、詠われていることは実景、実体験だと決め付けること。そんな感じで、評というより詠われている場面の感想のようなところもありましたが、それは「この場面の切り取り方、いいなあ」と思って選歌していたのでした。文法、修辞などはほんとうにわからないので、毎月いっぱいいっぱいでしたが、良い経験でした。半年間お読みいただきありがとうございました。

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原節子の訃報を知りし日の夜に逢瀬の約束反故となりたり

  縁談をぼてりとかわす暖冬の東北に降る一月の雪

  地下鉄の駅から五分 地下鉄の駅構内を十分歩き

  もうわたしは子供にあらずR指定映画も実の母と見にゆく

  コンビニに眠れるCDなくなりて痩せるCD置かれる二月

***

 母と見に行った映画は宮沢りえさん主演の『紙の月』でした。去年の話です。

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ふるさとを失くしたような寂しさだ本家の父ちゃん死んでしまった

  ランニングシャツ着ていつも畑に居た本家の父ちゃん死んでしまった

  一昨年の盆に本家の父ちゃんとゼリーを食べたのが最後なり

  血縁はなくて本家の父ちゃんのお葬式には行かないままに

  われの持つ一番高い洋服は喪服 社割で一八〇〇〇円

  奥羽山脈越えた向こうの農村の葬列を思う雪の降る日に

  笑い顔だけしか思い出せないやいつも笑っていた人だから

***

 親戚でもなく単なる近所付き合いでもない本家とか分家とかいう繋がりは、わたし達の世代ではもうすっかり薄くなっています。本家の父ちゃん母ちゃんまでは行き来もありましたが、その50代の息子さんとなるとわたしはほとんど面識がありません。だからこそ、いつか消えてゆく言葉を、詠んで残しておきたく思うのでした。

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一〇三万以下で働きたい人の多ければなごなごする職場

  三十も過ぎて職場で泣くなんて痛々しいな わたしのことです

  「田宮さんが頑張ってるのわかってるよ」次々皆に言われかなしい

  とりあえず昨日も今日も昼ごはん一緒に食べる人がいて、雪

  好きだった前の仕事の夢を見たスケープゴートになる前までの

  生きてゆく 小雪降る夜を歩きつつ生きてゆくなり傘も差さずに

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  十二月六日に地下鉄東西線開通するなり震災から五年

  一年後使えなくなるバスカード財布に二枚残りていたり

  十一階職場窓から海が見ゆビルとビルとの間のきらめき

  交通費出ぬゆえ休みの前日は歩いてかえる二四〇円分

  節約し歩き帰れば通り路に元恋人の家などあって

  性に合う職種と思う現職の離職率九割とニュースに知りぬ

  非正規雇用で貧乏なので歌会後に高いプランの飲み会は困る

***

 ほんとうに生活に困っていたら歌会後の飲み会には参加しませんので、オチのようなつもりで詠んだだけだったんです…。まさか採られるとは。

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プロフィール
HN:
おとも
性別:
女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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