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川が好き。山も好き。
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十二月三十一日の誕生日に「会いたい」なんて誰にも言えず

  俵万智、林芙美子と同じ日に生まれたること 除夜の鐘聞こゆ

  まだ若い、まだ若いなど言われても独り身なればそうは思えず

  そんな仕事辞めてよかったと言われしが通勤路の夕日きれいで

  タクシーに乗ればタクシーの運転手は運転手なる仕事中なり

  そんなことパートの私の仕事ではないと都合のいい時だけは

  職安の職員さんは職員という仕事中なり机挟んで

  職安へ十分バスに揺られ行く帰りは一時間歩くなり

***

 7首めに選歌後記で評をいただきました。
 また、二月号の選歌欄評で小圷さんに「食物」の教科書の歌を取り上げていただきました。おお、そういう読まれ方もあるのか、とおもしろかったです。

 わたしは、たとえばリストカットの画像を人に見せびらかしたりするような人が嫌いなのだけれど、わたしが短歌を詠んで公表するということが、それとたいして変わらないような気がして、自分の歌にある種の嫌悪感はあります。わたしが短歌を詠むということは自傷行為か。自分の色が出ていれば出ているほど、人に読まれることがこわい。
 そんなわけで、一首単位で、直接に顔を合わせる歌会には、割とハズした歌を持っていくのでした。

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田*智* 微妙に左右対称となれぬ名前のもどかしくあり

  「おともさん」と最初に呼びきは祖母なりき時代劇めき好ましくあり

  晴れた日は晴子、雪降りなら雪子 生まぬ子の名を考えており
 
  またしても「子供生みな」と言われたり生まぬまま閉じし年上の友に

  本名が旧姓として筆名になるを思えばさびしかりけり

***

 一首目の初句は実際は本名なのですが、ネットに自ら本名を載せるのは抵抗があり、ここでは伏字にさせていただきました。(他の方が引用されるのは気にしません)
 三首目、選者の淳さんに選歌後記で「まるで『細雪』の姉妹のような名前が楽しい。おそらく、こんな単純な理由で名付けることはないだろう。しかし昨今の凝りに凝った名前に対する微かな抵抗感もある。」との評をいただきました。

 一月号新樹集・風炎集・特別作品評で、俵屋さんに一月号の特別作品の評をいただきました。丁寧に読んでいただきうれしかったです。

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  接客業、福祉職にて寂しさをこじらせた人を幾人も見た

  過去形の話はしないと決めおればつぶやくことがもう何もない

  梅干しをつけんと母が購いし氷砂糖を祖母と舐めたり

  『食物』の教科書われにゆずりたる同級生のその後を知らず

  虹、虹と幾たび言えど通じぬを「にず」でようやく伝わる、祖母に


***

 5首目の歌を百葉集に採っていただきました、やったー。吉川さんが主宰にになってからは初めてです。吉川さんの歌が好きだったことも、塔に入った理由の一つだったので、うれしい。
 過去形の話はほんとうにもう止めなきゃって思うのです。今を生きねば。
 
 12月号の選歌欄評で、工藤さんに犬の歌2首を取り上げていただきました。ありがたいです。

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    海を見て過ごした

  目を閉じて高速バスに揺れおれば帰れない日の助手席へとぶ

  「仕事で?」と聞かれて「はい」とうそぶけり女一人で浅虫温泉

  オーシャンビュー一人じめするよろこびを一人じめしている六畳間

  絵はがきに写し誰かへ送りたいような夕陽だ(誰かって、誰)

  砂浜でじゃれあっている恋人達が旅館五階の窓から見える

  ご夫婦で千葉から来たと言う人と分け合う展望風呂の夕焼け

  赤い帯うまく結べずスカートのように浴衣がひろがってゆく

  水曜の午前七時の海岸にスーツ姿の消えてまた来て

  宿の朝飯が好きだと言っていたひととは終ぞ旅をせぬまま

  「一人旅してきたよ」って言うための一人旅めく温泉まんじゅう

  声にして涙と波が似ていると気づいた秋の海水浴場

  今だっていつかは過去になることを知りつつも今さらわれたい青

  でも君の最後の相思相愛の相手はわたしのままだ 潮騒
  
  生きててもいいと思った天気予報外れて晴れた波打ち際で

  海を見て過ごしただけの休日をいつかきらきら思い出そうね



***

 連作投稿の特別作品に初めて投稿し、掲載していただきました。「傷心旅行だろうか(略)徐々に他人へと視線が移って行き、最後に自問する構成が光った」との淳さんの評。傷心旅行でした。そして2年前の連作でした。予定をぜんぶ飛ばして、ただただ海を見ながら、この連作の歌を詠んだ旅でした。
 だいぶ寝かせることになりましたが、こうして日の目を見ることができてよかったです。

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泣きながら渡ったかつての通勤の歩道橋から見えた夕焼け

  あの頃に通勤バスで読んでいた本の内容ことごとく消ゆ

  文庫本しのばせてゆく晴れた日の国民年金免除手続き

  好きだったひとが誕生日にくれたゴーリキー『どん底』昔のことだ

  まだ恋もしたことないと縁談を断ったあれは二十歳の頃よ

  呉服屋のダイレクトメールに貼られたる日本画の江戸美人の切手

  遠刈田こけしの眼こそ良けれ見つめられれば笑みたくなりぬ
 


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嘔吐して早退したるバスの中お年寄りに席をゆずってしまう

  ゆるやかに解雇宣告されており麦茶のグラスに水滴増えて

  お座りといえばお座りする犬の黒い眼に見つめられおり

  日の影が映りゆくたび日の影に犬はおりたり犬小屋の前

  花束のような言葉が届きおり雨あがり受信ボックス開けば

***

 二首目を百葉集に採っていただきました。ありがたいです。体調を崩し過ぎてこれ以上仕事を続けさせるわけにはいかないという話し合いの場での歌でした。勧められた麦茶ばっかり見てた。そして犬のいる実家で療養生活に入る、と。
 塔12月号から入会して、12月号ももう3冊目、感慨深いものです。

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さよならはいつも苦手と誰か言いうなずいている仙台駅口

  一円玉ばかりなりけり貯金箱二十六年ぶりに開けば

  「ゆうびん!」とお金を入れた幼い日ポストの形の貯金箱なり

  遺書にあの上司の名前を赤く書き死んでやろうと時に思いつ

  部屋うちの全てのものが過去形と思う真夜中色のパステル

  住民票待ちつつ向こう公務員なる人達のまぶしかりけり

  今よりもあんなに恵まれてた日々を何故どん底と思っていたの

  しあわせな歌が詠みたい誰からも全然ほめられなくていいから

***

 二首目を選歌後記に取り上げていただきました。「二十六年前といえば、平成元年、昭和の終わりということになる」って、作者のわたしが全然気づいてなかった! 
 
 9月号選歌欄評に、9月号に載せていただいた
  「田宮さんて美人だよね」と言われたまま美人になってしまえばよかった
と、いう歌を取り上げていただきました。「あっけらかんとした自己肯定が素晴らしい」とのことですが、ほんとうは真逆で容姿を貶されて育ったのに珍しく褒められた時の歌なのだけど、こうして歌は作者の手を離れてゆくのだなあ、って、おもしろく思いました。この歌については思うことがあったので、そのうちなにか書きます。

 今号の特集は全国大会報告。いいなあ、行きたかった、京都。

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父も母も畑に出でて療養中のわたしはせめて食事を作る

  服薬をするために食む朝ごはん晩ごはんなり少し肥えたり

  おすそ分けされたり隣の逸希ちゃんの七歳誕生日祝いの餅を

  夫や子の歌をわたしも詠いたしナスの肉詰め揚げる菜箸

  こんなはずじゃなかった今を生きているただ生きているまた朝がくる

  心病むおとうとが居間のテーブルの周りをぐるぐる回っておりぬ

  大吉を当てたり祖父の命日の墓参ついでにおみくじ引けば

***

 今号は十代・二十代歌人特集がきらきらまぶしい。

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日曜は畑と決まり休みなど休みでないのだ兼業農家は

  仕事終え夕飯ののち市場へとモロヘイヤ出荷しに行くトラック

  町に野に働き者の母なればわたしは曾祖母に育てられたり

  今さらに迷信だとは思われず年寄りっ子の三文安は

  家にもうお金がないと通帳を二冊投げつけ母の嗚咽は

  「田宮さんて美人だよね」と言われたまま美人になってしまえばよかった

  こけしこけしこけしが欲しい胴をにぎり頭をなでて可愛がりたい

  くり返し「寂しい人生だ」とつぶやけば祖母に「楽しい」と訂正される

  そうだ日記書かなきゃ日記きっと読み返したくなどならない日記


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  まるで遺書みたいなメールの文面を送ろうとしてしまう春の夜

  欲張っておみくじ二回引きおれば待ち人来ずと二回告げらる

  かたたき券一枚交じれり母の日にいま精いっぱいの物をあげれば

  あの人もこの人もガラケーにして何故か安心するバスの中

  羽黒山二四四六段上り下り母が御守り買ってくれたり

***

 歌の詠めない時期があってここ数月ずっと欠詠していたのだけれど、やっぱり自分の歌の載っている塔が届くとうれしいな、と、あらためて思ったのでした。歌会でお会いする方に欠詠を気にかけていただいたりもして。

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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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