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川が好き。山も好き。
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夕飯はもやしと豚肉を炒めてポン酢でもかけて食べようかな、と思って野菜売り場へ赴いたらもやしが売り切れでした。このところ卵や乳製品を筆頭に値上げ続きで、もやしのように安くてボリュームのある食材はありがたい。考えることはみんな同じなのでしょう。もやしはこの頃人気です。
 少し前のNHKマル得マガジンでも「もやしでごちそう カサ増しグルメ」というシリーズ回でした。ああもう少し前は同じ枠でアボカドレシピなんてやっていたのに。そのアボカドも昔は100円ほどで買えたのが今は倍の価格になってしまい、なかなか手に取りにくくなりました。マグロの刺身に手が出ないから、代わりに風味の似ているアボカドにしょうゆをかけていたほどだったのに。暮らしが下降してゆき、今までの日常だったものがぜいたくになりつつあります。もともと慎ましくしていた方だけれども、今まで以上に財布の紐をしめなければ。

 今まで以上に財布の紐をしめなければいけないのに、ぜいたくをしました。この春に発売された『朝のあかり 石垣りんエッセイ集』(中公文庫)を買いました。『ユーモアの鎖国』『焔に手をかざして』『夜の太鼓』を底本とし、独自に作品を選定して再編集した一冊です。なにがぜいたくかって、わたしは底本の三冊を既に持っているのです。再編集の一冊に、書き下ろしや未収録作品の収録もありません。再読なら手持ちのものを読めばいいのです。けれども、土筆の描かれた黄色のカバーを書店で見たときに、なにか元気をもらえたような気がしました。思い入れのあった随筆の「朝のあかり」が表題作に選ばれていたのもうれしく思いました。
 夜がきたら、たとえ二つの部屋の片方に家族が集まっていても、あいているもうひとつの部屋を同じように明るくしておきたい。台所も手洗いも、みんな電気をつけておきたい、私は明るさの持つ静かなにぎわいが好きだから。(中略)電灯が宝石のように高価だったら私だって手が出ない。さいわい電気代くらいなら狭い家のこと、全部一晩中つけておいても給料でまかなえるだろう。(中略)「もったいないですって?」一日働いてくたぶれて、あれもこれもしようと思いながら、思い果たさず消し忘れた電灯。「デンキぐらい、なんの楽しみもない私の道楽なのに」と泣き落とした。(後略)/「朝のあかり」
 わたしも朝までずっと蛍光灯をつけています。わたしは一人で過ごす部屋が暗いのが怖いという理由なのでもしかしたら少し違うかもしれないけれど、それでも好きな詩人が自分と同じことをしているという事実に励まされるものがありました。「デンキぐらい、なんの楽しみもない私の道楽なのに」という思いもせつなく刺さりました。
 初読のときは20代だったわたしも、石垣りんが随筆を執筆していた年代にだいぶ近づきました。あの頃に思い描いていた将来からは遠く離れて、今のわたしにより沁みてくる言葉がたくさんありました。この一冊に選定されなかった分も含めて、石垣りんの随筆は折にふれて読み返してゆきたい。また、わたしも文章を書いてゆきたい。ぜいたくしたおかげで、心が奮い立ちました。

  カルピスを牛乳で割るぜいたくを時々はして元気でいます 『にず』

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プロフィール
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おとも
性別:
女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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