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川が好き。山も好き。
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10月になってしまいました。8月号を読みましょう。そして9月号も読み終えておりますので近々。敬称略です。

  しまらくを迷ってプリンを買わざりきこうして四十年を過ごした  高橋武司

 本当にプリンを買わなかったのかもしれないけれど、プリンそのものへの執着というより、プリンのような買おうと思えばいつでも買えるような些細な物を買わないできてしまった生き方への自問の歌だと思いました。下の句の句またがりと口語が印象的。

  早苗とか佳苗とかいう名の友達が教室にいた昭和の頃は  山西直子

 わたしの同級生にも早苗ちゃんがいました。他にも耕、実など豊作の祈りを込めた名づけが、農家には確かに多いとあらためて気づきました。家業にちなんだ名づけも、農家も、時代の流れと共に少なくなっているのでしょう。

  それぞれの家に継がれし被爆記を内に秘めおり長崎の人は  北辻千展

 長崎といっても長崎全てが一緒ではなく、それぞれに物語があるということ。それを表沙汰にはせず内に秘めているということ。長崎という地名が、実際に長崎なのでしょうけれど、長崎なのが良いです。

  小さくてすぐにふさがる傷なれど痛みに夜を明かすことあり  佐伯青香

 実際にケガをしたのかもしれないけれど、心の傷のようにも読めました。「すぐにふさがる」という断定がなにかせつない。たいしたことない、すぐ治るってわかってても、痛いものは痛い。 

  腰痛の検査で癌がわかったと山の友達いつも前むき  林都紀恵

 重い内容を率直な言葉で詠んでいますが、友達のキャラクターに合っていると思いました。下の句が3・4・3・4と調子が良くて山登りの足取りのようです。

  菜の花のごとく明るくふるまって年度当初をしのいでおりぬ  垣野俊一郎
  
 お仕事の歌でしょうか。上の句の比喩に惹かれました。確かに春のどの花より菜の花が一番明るくてまぶしい気がします。花びらの薄さなども思いました。

  指先より老いは始まるとう指先に春を触れたり木の芽を抓みぬ  山本建男

 人間の老いと、これから育ちゆく自然との命の対比。出荷や料理のために木の芽は抓まれるのでしょうか。「指先に」「春を」と助詞の使い方がおもしろいです。

  次女の夫はオーママと呼び長女の夫はお母様と我を呼ぶなり 小川玲

 呼び方一つにも人柄が表れます。姉妹でも男性の好みはそれぞれ。しっかり者の長女は真面目な人と、のびのび育った次女は気さくな人と、似た者同士で結ばれたのでしょうか。当事者でありながら観察に徹しているような詠いぶり。

 新元号の歌の他に、円空仏の歌が多いように感じたのですが、なにか円空仏が世間の話題になっていたのか気になりました。時事詠の競演も結社誌のおもしろさだと思います。



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自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

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