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川が好き。山も好き。
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塔8月号を読みます。敬称略です。

  シャッターを切りしは誰であつたらう笑顔の私が抽出しより出づ  大塚洋子 

 自分の笑顔を写真の中に残してくれたのは誰だっただろう、自分は誰に向かって笑ってるんだろう、といような。抽出しは実物でありながら記憶の抽出しでもあるのでしょう。

  うねうねと風呂の鏡に指で書く路線図に子は駅を足したり  澤村斉美

 ほほ笑ましい親子の入浴光景だけれども、どこか暗示的な歌でもあります。通過したり乗り降りしたり出会いや別れの交錯する駅が、お子様の手で書き足されました。

  菜の花忌のポスター貼らるる駅出でて記念館へと菜の花に沿う  伊藤文

 駅のポスターは旅心を誘われる。菜の花忌を記念する記念館への道沿いに菜の花を植えるという、人の心のシンプルさが気持ちいいのです。

  五年前二回休みて登りたる梅ヶ渕の坂けふは休まず  上大迫チエ

 数字の具体性の説得力や、地名の固有名詞の味わい。結句の否定形がなにかいじましく、五年前よりお元気でいるということもうれしい気分の読後感にさせてくれます。

  施設では食べられぬ刺身フルーツを買ひ足し母の帰るを待ちおり  江原幹子

 施設では刺身は感染症予防、フルーツは特定の制限がある方には生でお出しできず缶詰で代用したりなど気を付けているのですが、それよりもう好きなものを思う存分食べてほしいという心なのでしょう。考えさせられます。

  しゃぼん玉ゆらりと我を離れゆく山を歪めて海を歪めて  廣鶴雄

 自分の息を吹き込んで放たれたしゃぼん玉に歪んで映る山や海、実景なのでしょうけれど、なにか心が映されているようで、言いさしの結句にも余韻が残りました。

  母の日にプレゼントをくれし嫁も娘もみんな母になり庭にバラ咲く  宮脇泉

 息子のお嫁さんと実の娘が並列に詠まれているところに心を感じます。一男一女を授かり、それぞれが婚を成して子を設け、バラ咲く庭のある家に暮らして歌を詠む、という暮らしの健康さがまぶしい。

  手作りのカードにならぶ四匹のクマには四つ吹き出しがあり  岡部かずみ

 一読してただごと歌のような味わいですが、そもそも喋れないクマに言葉を発させているのがよく考えたらシュール。クマに託さず自分で伝えてほしいという思いもあるのでしょうか。

  短い方のポテトを君が食べるから長い方ばかり僕は食べてる  近江瞬

 ポテトの食べ方にも関係性が表れるのでしょう。長い方を相手に残すことが思いやりのようでもあり、長い方がしなしなになっている気もしたり。

  わがままな子は幸せになれないと諭しぬ少し疑いながら  中込有美

 もちろん道徳的には自分中心で人を思いやらないようではいけないのだけれど、そう諭すけれど、ほんとうにそうだろうか。実際は散々人を振り回して迷惑をかけてもわがまま放題に生きている人の方が幸せそう、と気づいてしまった。優しい人が幸せになれると信じたいけれど。

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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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