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川が好き。山も好き。
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もうすぐ3月号が届いてしまいますよ。敬称略です。

  父のなきわたしは叔父に連れられてまぶしかりきよ常磐ハワイアンセンター  宮地しもん

 やっぱり「常磐ハワイアンセンター」というB級感かつノスタルジー漂う名称の味わいにつきます。「スパリゾートハワイアンズ」ではこうはいかない。そして確かにあの頃のハワイアンセンターは子供心にまぶしかった。叔父と姪の小旅にもドラマ性があるように思うのでした。

  はじめての歌集の名前を考える(産むことのない)子の名のように  永田愛

 素直に詠われているからこそせつない。〈 )でくくったことによって、( )内の言葉が目立ちつつも主張としては控えめであることが感じられます。歌集に対する大切な思いも。個人的にもこの感覚はよくわかるのでした。

  ペコちゃんの前を通って帰宅する少し遠回りになるけれど  杉田菜穂

 ペコちゃんが好きなのでしょうか。あるいは、なにかつらいことがあった帰りに、愛らしいペコちゃんの顔を見て元気を出そうというのでしょうか。何かの縁起担ぎかもしれません。遠回りしても、というのがいじらしいです。「少し」がいいように思いました。

  子の無くて五十六年子の名前ひそかに考えてみたりしていて  荒堀治雄

 こちらも子の名前を考える歌。五十六年という具体的な数字の、その長い年月がせつない。同年代が孫を持つような頃でも考えるのは「子」なのです。ぐだぐだした下の句のはぐらかし感もまた。

  思春期に父のくれたるキーホルダー「努力」の文字の黒き石なり  きむらきのと

 このキーホルダーがシュール過ぎて、ちょっと欲しくなるくらいです。ただでさえぎくしゃくしがちな思春期の娘に、お父様はなにゆえこれを選んで贈られたのか。厳しいメッセージなのか、天然なのか、想像が広がります。

  河岸の桜古木に札のあり 犬猫を埋めないで下さい  和田澄

 樹木葬のように、愛するペットの亡骸をうつくしい景色の中に葬りたいという飼い主がたくさんいるのでしょう。けれども木の管理している側からしたら困った話であるという現実問題が。

  百並ぶかかし祭りの五番目は亡き父に似て少し面長  三木紀幸

 帰省の一連から。かかし祭りという行事が興味深いです。かかしに亡きお父様を重ねるというのも地域性があっていいと思うのでした。割と早くお父様似が出てきましたね。八十六番目とかだったら疲れそう。

  わたくしを励ましくれる木のひとつひとつを数へ過ごしゆく夜  山尾春美

 木が励ましてくれるという、木との関係性、木への思いがいいなと思いました。それが一本ではなくていくつかあるということも、夜に思うことも。

  夫のシャツ二十年分作りぬと笑ひて友は三年に逝く  阿蘇礼子

 ご友人さんが自分の死期を感じ取り、自分亡き後の夫が困らないようにシャツを作ったのだと読みました。二十年分という量もすごいし、夫に長生きをして欲しいという祈りもあるのでしょう。愛とはこういうものなのだろうなあ。

  どうしてもケヤキが欲しいと植えし夫の在らぬこの夏 大きく伐りぬ  今井眞知子

 一字空けての結句への流れがおもしろいのですが、それより「どうしてもケヤキが欲しい」という夫のキャラクター性にとても惹かれます。木を植えるって結構大変だと思うので、実行したのもすごい。


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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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