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川が好き。山も好き。
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塔1月号が届かないうちに12月号を読みましょう。敬称略です。

  わが好物を多く産する被災地の今朝の冷えこみいかがなるらむ  福井まゆみ

 詞書に「北海道厚真町」とあり、9月の北海道地震を思う歌です。好物の産地だ、という被災地の自分への引き付け方が、素直でいいと思いました。「今朝の冷え込み」という細やかな心配りも。

  「お腹すいた」母の口ぐせ風に乗り聞こえて来そうな秋の夕暮れ  弟子丸直美

 お母様を亡くされての一連から。「お腹すいた」という口ぐせを、たくさん食べられないご病気や健忘の症状なのかと読みに迷うところなのですが、食いしん坊と明るく読みたい。「秋の夕暮れ」とさびしさで、三夕の和歌風味です。

  妹が帰省せぬとふ買ひ置きしソフトモナカをひとり食ひたり  金光稔男

 「ソフトモナカ」という商品名はないようでしたので、わたしは割って食べる四角いモナカアイスをイメージしました。分け合って食べようと、買い置きして楽しみに待っていたのでしょう。アイスの甘さ爽やかさ慎ましさが、兄妹仲にも重なります。

  椅子とりのゲームに入ればひしめきて我のためなる椅子はあらざり  三好くに子

 そういえばそうだなあと気づかされる歌。単純にゲームのことと思えばただごと歌のようでもありますが、人生とか社会とかいろいろ深読みをしたくなりました。

  安売りの卵の列に列びおり知らない人とこんなに近い  中野敦子

 目的に真っすぐ向かっているさ中に、ハッと周りを見て冷静になる瞬間。知らない人と密着するなどという異常な空間が、安売りといってもせいぜい100円200円の卵によって作り出されるということ。人間の心をかなしく考えさせられるのでした。

  二回目のあなたのゐない秋が来て あなたの分までさみしいのです  長谷仁子

 他の歌から挽歌かなとも思うのですが、あなたも自分と過ごさない秋をさみしいだろうという確信の言い切りが清々しくもまぶしい。すっきりと言葉が定型に収まっている中での一字空けも、なんだか効いているような気がします。

  妹は彼の人の子を産みたくて願い叶わず病みてしまえり  鈴木晶子

 ただ子が欲しいというのではなく「彼の人の子を産みたい」という自分より相手への重き、旦那様ではなく「彼の人」という表現に、ただならぬ迫力を感じました。夫婦の不妊治療なのか、一方的な片思いメンヘラなのかこの歌では不明ですが、このままの迫力がいいのでしょう。

  もうすぐに夫は九十才になる心の夕餉をならべてみたい  市川王子

 「心の夕餉」とはなんだろう。高齢になって食べられるものの限られてしまった夫の食卓に好物をならべてあげたいということなのか、単に無口で何を食べたいのかわからないということなのか。「心の夕餉」という言葉の響きにも妙に惹かれます。「みたい」という結びの軽妙さも不思議におもしろいです。

 12月号は猛暑や台風の歌が多く、あらためて短歌の記録性が思われました。浜松での全国大会の歌も、みなさんそれぞれの思い出が伝わってきて楽しく読みました。わたしも良い思い出です。
 年末回顧の特集も読みごたえがあって。三重歌会が密かにいつも気になっています。座談会に名前を挙げていただけたのもありがたいです!

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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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