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川が好き。
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唐突に、文ちゃんのことを思い出しました。文ちゃんは、10年前、わたしが接客業をしていた頃のお客さんです。当時52歳くらいでしたが、60歳以上に見えました。老けて見えるのは、病気のせいだったと思います。文ちゃんのお友達で世話人のようなおじさんが、文ちゃんは体が悪くて何度も入院をしていること、頭のネジが飛んでいるけれど気にしないでほしいというようなことを教えてくれました。

 文ちゃんは「笑顔がいいね」とわたしを気に入ってくれて、お店に来ては「アイラブユー」と言いながら森山良子のカセットテープや一言のみ書かれたラブレターを渡してきたり、カーネーションの鉢植えを持ってきたりしました。そうしたことを、ストーカーに遭っているのではないかと同僚さんや上司に心配されたりもしましたが、結局は悪質なものではないようだし、わたしがお年寄りの癒しになっているようなら適度に相手をしてあげて、というような話で落ち着きました。

 当のわたしは、こんなに真っすぐに愛情を伝えられたのが初めてだったので、うれしい気持ちがあったりもしました。
 もちろん、これが一般的な50代男性だったら気持ち悪いことこのうえないのですが、文ちゃんは普通の人と違って頭のネジが飛んでいる人だったので、逆に誰の言葉より信じられるような気もしました。おじいちゃんにかわいがられているような、子供に慕われているような感覚でした。
 一方で、文ちゃんにしか愛されない人生なのか、と悲しくなったりもしました。どうやら自分が知らず親に傷つけられて育ったことに気づいてきた頃で、これまでの自分の生きにくさの理由がわかってきた頃で、精神的に弱っていたというのもありました。

 ある日、文ちゃんは泣きながらやってきました。あんたのことを恋愛感情で見ているわけではないんだよ。親のような気持ちなんだよ。あんたがかわいそうなんだよ。ということを訴えてきました。かわいそう、かわいそうと何度も言いました。
 わたしと文ちゃんはただの店員とお客さんなので、年齢を聞かれた時に答えたぐらいで、個人的な話をしたことはありません。文ちゃんはわたしのことを何も知りません。だのに、わたしの何がそんなにかわいそうに見えたのでしょうか。

 それから文ちゃんはまた入院したようで、しばらく顔を見せることはありませんでした。久しぶりに例のお友達のおじさんと一緒にお店に来た時、痩せて一層老け込んだようでした。そして、わたしのことも忘れているようでした。文ちゃんを見たのはそれが最後です。

  誰からも必要とされぬわたくしの職場向かいのアカチャンホンポ

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