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川が好き。山も好き。
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真実をみきわめるのに
  二十五年という歳月は短かったでしょうか
  ……けれど
  歳月だけではないでしょう
  たった一日っきりの
  稲妻のような真実を
  抱きしめて生き抜いている人もいますもの
                            (「歳月」より)


 茨木のり子詩集『歳月』(花神社)再読。夫の死後に書かれた、夫への挽歌。ラブレターのようなものだから生前は恥ずかしいと、「Yへ」(夫君のイニシャル)と記された箱へ仕舞っておいて、自身の死後に公表されたという、愛の言葉たち。
 こんなふうに伴侶を想っていたい。何度読み返してもうっとりしてしまう、うつくしい詩集。白を基調とした装丁もすてき。わたしの宝ものの一冊でした。

  詩のに茨木のり子『歳月』がなくて二月の妹の結婚

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 篠田節子『女たちのジハード』を再読。初めて読んだのは19歳の頃だったかと思う。今読み返しても充分に面白くて一気に読んでしまった。同じ会社に勤めるOL5人の話。読んだ当時は社会に出ていなかったけれど、今読み返すからこそ身につまされるものもあった。
 というか、なんでこうした小説を社会に出る前に読んでいながら、その後の人生に活かせなかったのだろう。地元がど田舎過ぎて、両親や親戚、周りの大人達、学校に来る求人等、みんなブルーカラーばかりで、サラリーマンやOLといったホワイトカラーの職業は小説やテレビの中だけのファンタジーのように思えてたのかもしれない。自分とは関係のない都会のお話といった感じで、なんだか遠かったせいか、内容のほとんどを忘れていたのだった。
 覚えていたことといえば、競売のことと、男の人は仕事の付き合いで風俗に行ったりする、などというどうでもいいことばかり。その後、お笑い芸人さんのラジオをよく聴いていて、ほとんどの人が風俗に行く話をするし、時代小説を読めばどの侍も町人も吉原や岡場所に普通に行くし、男の人というのはそういうもの、という認識が自分の中でできてしまった。それは、たとえば自分の恋人が風俗に行っても男の人として普通のことなので気にしない、というぐらいの感覚のズレをもよおした。だから友人の旦那さんが「そういうところに行く人は人間の種類が違う」と言っていたと知り、「え? そうなの?」と、ほんとうにびっくりした。今は、風俗に行く男の人にちゃんと嫌悪感が沸く。これは女性として普通の感情だと思う。以前はどこまで心が広かったのだ、わたしは。

 バブル崩壊直後に出版された『女たちのジハード』には、OL達より上の職業としてスチュワーデスという言葉がちょいちょい出てくる。スチュワーデス、確かに華やかではあるけれど、今だったらそこまでみんなのあこがれの職業だろうか。今だったら、というか今だったら普通のOLだって充分恵まれてるような気がする。いくらやり甲斐がなかろうが、お局になって居場所がなくなろうが、ボーナスの出る正社員というだけでも充分恵まれてるような気がする。ただのOL、すら今やあこがれの職業なのではないか。
 結婚に焦る年齢も今だったらプラス5歳ぐらいな気がする。登場人物の一人は「24歳までに結婚しないと」と焦っているけれど、当時はそうだったのだろうけれど、今は24歳って早婚なイメージ。今だと24歳って早婚のイメージだけど、妊娠出産等の肉体的体力的な面から見ればやっぱり適齢期は今でもそれぐらいなのかも、とも思った。

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銀行へ行って、口座を一つ解約してきた。今年の一月に勤め始めて三月に辞めた仕事の、給与振込先として指定されて作らされた口座。もう用はない口座。この時期のことは記憶から消えてゆくのだと思う。人間はそういうふうにできてる。短歌にも詠んでないし、思い出す気もない。
 
 郵便局へ行って、参加する短歌冊子の費用を振り込んできた。冊子の趣旨においての、自分の役割、立ち居地のようなものを考える。わたしにしか伝えられない事実がある。
 今は歌が詠めない、とこぼした時、先輩方に「詠んでほしい」と言ってもらえてうれしかったし、「今回は無理しなくても」と言ってもらえてうれしかった。
 搾り出すように詠んだ歌だったから当然のごとく「投げやり感」「粗っぽい」「幼い」等々の辛口な批評もいただいたけれど、そうした心情を残すことにも意味があったと思いたい。
 
 図書館にも行った。これからのひと月は、実家か図書館で過ごす時間が多くなるのかな、と思う。わたしの部屋には昭和時代製の扇風機しかないから。熱中症による死亡防止のため、生活保護世帯でさえクーラーを推奨されているというのに。
 山本周五郎作品の女性について書かれた本を読んだ。山本周五郎作品の女性はいじらしくて可愛い。それにしても、今読み返すと、わたしの好きだった話は貧乏だったり親に捨てられたり世間から落ちこぼれてるようなものばかりだ。今読み返すと、少しつらい。わたし、山本周五郎ばかり読んでいた頃、いろんなことをあきらめていたなあ、って思い出した。たぶん、今も。
 黒澤明監督の『海は見ていた』の脚本と絵コンテの本を読んだ。予算の都合で黒澤監督は断念したそうだけれど、後に熊井啓監督が映画化したものをDVDで見た。原作は山本周五郎の岡場所もの『なんの花か薫る』と『つゆのひぬま』、どちらも好き。黒澤監督は当初、ヒロインとして宮沢りえさんを想定していたそう。わかるなあって思う。でも、実際に主演した遠野凪子さんも悪くなかった。今のようなエキセントリックなキャラが表立つ前のこと。最近の、私生活での彼女の離婚に思いのほかショックを受けている自分がいる。なんだろう、この気持ちは。ACの生きにくさを知っているから、しあわせになってほしかったのかもしれない。映画は、「こんばんは」と書いてある小道具の提灯がいいなって思った。かわいい。

 四月に新しい仕事にありつけたけれど、七月後半まで休職することになった。

  図書館へ行くね 図書館ぐらいしかわたしの行ける場所はなくって

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 妹から宅配便が届いた。新婚旅行のお土産と、結婚式に寄せたウェルカムボードのお礼とのこと。お菓子やコスメと一緒に「処分しようかと思ってたけど読むかなと思って」と文庫本の小説が数冊入っていた。本好きなのでうれしい。

 同封されていた5冊のうちの3冊が、彼氏のいないアラサー独身女の悲哀、といったジャンルだった。
 い や が ら せ か !
 、というわけでなく、わたしがこういった傾向のものを読むと妹は知っているのだった。もともと妹とわたしの読書の好みは近く、以前会った際も芥川賞作家・西村賢太の可愛さについて熱く語り合った。姉妹して、ちょっとダメな感じの人間の物語に惹かれるのだった。とはいえ、一途な10年愛を実らせた妹が、なんでまたモテない女子の恋愛小説をこんなに読んでいたのだろう。妹なりに、なにか思うことでもあったのだろうか。
 ちなみに、残りの二冊は、夫の不倫によって離婚する夫婦の小説(この本はわたしも既に所持していた)と、社会の底辺で生きる市井の人々のドキュメンタリー短編集であった。
 早速読み進めてみたものの、思いのほかつらくなってしまった。別に、悲劇的な展開なんてどこにもなく、みんな一生懸命生きてるって、そういう話ばかりなのに。以前は好んで読んでいたようなものばかりなのに。 

 少し遡り、妹の結婚式へ向かう新幹線の中でのこと。道中に読もうと、一冊の文庫本を鞄に忍ばせていた。けれど、いざ読もうとしたらつらくて読めなかった。
 大好きな小説だった。大好きな作家の、映画化もされ世間的にも名の知れた名作短編集である。けれども、この小説で語られるような、貧民街で人間臭さを剥き出しに生きる庶民の人生のかなしさと愛おしさに、最近は少し目を背けたいような思いでいることに気づいた。
 泣きながら何度も繰り返して読んでいた頃のわたしの心を思った。「お勧めの本を貸して」と言われ、大切な思いでこの一冊を選んで貸したこともあった。「全部は読めなかった」と返してきた人の心を思った。

 世渡り下手で不器用な、世間的に落ちこぼれた人達に対する、作者の優しい視線の感じられる話が好きだった。ずっと好きだった。
 けれど、心に少しでも余裕がある時でないと、しみったれた話を受け止められないのかもしれない。
 今は、できれば底抜けにハッピーな話が読みたい。

   職安の二十八人待ちの間に周五郎読み泣くなよ、わたし

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 妹の誕生日、結婚祝いも兼ねてなにか贈りものをしようと思い、『祝婚のうた』(小学館/新川和江・編)という本を選んだ。妹はわたしと違って詩にそれほど興味もない人だけれど、この先誰かの結婚式でスピーチや余興などを頼まれることがあった際になど実用品にもなるのではないか、と。

 贈る前に、自分で読んでしまう。吉野弘の「祝婚歌」はテッパンとして(この詩の入っている詩集と決めていたのです)、川崎洋「にじ」が冒頭を飾るのも素晴らしい。編者である新川さんの「結婚」もやっぱりいいし、草野心平「春殖」が収録されているのにもなにか心打たれる。個人的な好みでいえば黒田三郎『ひとりの女に』から一つくらい入れたいし、山之口貘の「畳」とか「生きる先々」とかも入れたいところだけれど。100歳を超えてなおご健在の「ぞうさん」の詩人、まど・みちおさんの「はるかな歌 わが妻の生まれし日のうた」はこの本で初見だったのだけれど、なんだかもうたまらなかった。白を基調にした装丁も、「愛の詩の花束を」という帯文も素敵。
 
 このまま、自分のものにしておきたいくらい、うつくしいアンソロジーでした。他の誰でもないたった一人の相手と共に人生を歩もうと決めるということ。そんな思いを言の葉にのせるということ。こんなふうに思われたい、と思う、たくさんの詩。たくさんのよろこび。たくさんの幸福。
 なんだろう、読んでるだけでしあわせな気分だ。こんな気持ちを誰かと分かち合えたらいいのに、と思った。

  詩の好きな君がわたしを好きなうちに話したかった好きな詩のこと


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プロフィール
HN:
おとも
性別:
女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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