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川が好き。山も好き。
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  「たすけて」と言えれば会えたかもしれぬ夜に一人で過ごす避難所

 わたし一人ぐらいわたし一人でどうにでもなる、だからあなたはあなたの手を必要としている人のところへ行ってあげて。そんな気持ちで、震災の避難中、さし伸ばしてもらった手を握らなかったことは、わたしの一生ものの後悔です、そうした本心を伝えなかったことも。
 被災した誰にも、家族や恋人、友達、たとえばわたしの職場は介護施設なのでご利用の高齢者の方々など、わたしより優先すべき大切なものがあります。そう思えば誰かに甘える気にはとてもなれず、「わたしは大丈夫!」と、その後の日々も気丈にふるまっていました。周りの人もみんなそれぞれ大変でがんばっている中、無理をしているつもりはありませんでした。
 ほころびが見え始めたのは震災からひと月後あたり。電気、水道、ようやくガスも通るようになり、少しずつ日常を取り戻した頃、抑えていたものが、体や心に不調となって表れてきました。
 非常時にその人の本性が露になる、と言います。わたしは、他人のことやその場の空気を優先して自分の感情を後回しにしてしまう、という性質が、震災時に顕著に表われてしまいました。自分を大切にしないことは、自分を大切に思ってくれる人を大切にしないことに繋がる、ということに気づくのが遅すぎたのでした。

 「この歌には、とても普遍的な問いが含まれてると思い選ばせていただきました。非常に大変な状況がある中で、やっぱりいろんな方が我慢をされてたと思うんですね。がんばらなきゃと思ってもやっぱり生身の人間なわけで、たすけて!と心から言いたくなる瞬間っていうのはあるかと思うんですよね。でもこういう状況の中ではやっぱりそういうことが言い出しにくかった、言い出しにくかった状況である、ということをこの歌を読むことによって、やっとわかるというか、伝えていただいたっていう気がするんですね」
 3月9日放送の『NHKハートネットTV 東日本大震災を詠む2013』の中で、歌人の東直子さんに評をいただきました。わたしが余計な気を回して振り払ったことで、優しい手を傷つけてしまった、同じようなことをこれまでの人生の中で無意識のうちに何度もしてきた、そうした自分を責め続けていた日々を、肯定してもらえたような気がしました。また、放送では流れませんでしたが、ゲストの生島ヒロシさんは「東北の人は我慢強い」としきりにおっしゃっていました。山田賢治アナの「我慢しなくていいんですよ」という言葉も、思い出す度に泣きそうになります。

 「たすけて」と言いたいときには言おう。伸ばしてもらえた手は握ろう。なにより自分を大切にしよう。東日本大震災ののちに、そんな当たり前のことをようやく自分にゆるせるようになりました。

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自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
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