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川が好き。山も好き。
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『精神0』を観てきていました。想田和弘監督の観察映画第9弾、引退を控えた82歳の精神科医・山本昌知さんを見つめるドキュメンタリーです。
 同時期に、前作の『精神』も再上映されていましたが、予告編を観た時に、本編は観る方にも覚悟が要るような気がしてきて、自分の心の強さに自信がないので、今回は新作の方だけ観ることにしました。

 医師のドキュメンタリーではあるのですが、そうした立派な肩書や公な姿より、より山本昌知さんという人間そのものへ目を向けられていると思いました。『港町』の時の監督のトークショーで、ドキュメンタリーに何かテーマを決めてしまってそのように編集することもできる(が、そうしなかった)、というようなことを仰っていたと記憶しているのですが、この映画もそのようにテーマを作ったり押し出したりせずに、できあがって初めて浮かび上がってきたものがあるのでしょう。
 カメラワークというのか、なにか、撮っている人の目線を強く感じるのが独特でした。観察映画ということなので、目に入ったものを撮ってゆく、おもしろく思ったものを撮ってゆくといった感じなのでしょうか。スクリーンには主に山本ご夫妻が映っているのだけれど、映している方の存在感が強い、という、不思議な感覚です。

 老いについては、ほんとうに感じ入ってしまうところがありました。監督である想田さんにお茶を出そうとする場面が、とてもしんどかった。ダイニングキッチンから応接間へお茶菓子と飲み物を運ぶ、というだけの何気ない動作が、壮大な試練のように映し出される。その場に駆けつけてサッとお菓子を箱から出して棚からコップを取ってお盆に乗せて持って行って注いであげたくなるくらいでした。普通だったら3分もかからないような作業が、老いゆえこんなにしんどい。きっと待つのもしんどい。そしてそれをこうしてじっと観ているのもしんどい。でも、これはわたしにも訪れる未来だ、と思うのでした。

 夫婦愛、というようなことがチラシのコピーや、映画館に貼ってあった切り抜きにも書いてありましたが、お涙頂戴的なメロドラマっぽさは全然なくて、日常そのままといった感じでした。でも、その日常こそが愛なのだとも思います。老いや、病を患ったことが事件でも分かれ道でもなんでもなくて、前作『精神』やそれ以前の来し方と自然な地続きだということ。
 後半に出てくる、奥様のお友達にはとても救われた気がしました。おしゃべりでとても良いキャラクター性ということもあるのですが、奥様がお元気だった頃と変わらない尊敬と友情で今もお付き合いがあるのがうれしく思いました。そうした中で、医師の妻としててきぱき仕切っていた頃の映像が挟まれたりするのに、胸にくるものがあります。自分が年齢を重ねてきたせいか、他にもたとえば『ふたりの桃源郷』などの長期のドキュメンタリーや、お正月に観た『男はつらいよ』などのフィクションでも、時を経てゆくものにこの頃は惹かれます。長い目で一人一人の人生について思いを馳せたいのかもしれません。

  公式サイト→https://seishin0.com/

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自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

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