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川が好き。山も好き。
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塔8月号を読みます。河野裕子一首鑑賞が圧巻です。敬称略です。

 子どもらは三月を家に籠りいて最も姿を見ぬは次女なり  荒井直子

 きょうだいの個性がこんなところにも出てくるのだなあと興味深い。長女でも末っ子でもなく次女というのも。過度に心配するでもなく淡々とした詠いぶりに健康的な親子関係の距離感が感じられます。

  美しき切り口みせて卵焼き椎茸と鮭のあはひに詰める  山縣みさを

 卵焼きの断面の美しさにハッとしました。特別なものはなくても彩り豊かでおいしそうなお弁当。たぶん詠われていないところで緑の絹さやも入っているでしょう。

  マスクは洗つてまた使ふんだと義父を叱る夫ゐて長き家居は続く  小林真代

 親御さんが叱られて小さくなっている姿というのはなんともいえずかなしい。つい数か月前の使い捨てのマスクが貴重品だった頃、マスク一つで争いが起きてしまう日常がとてもかなしい。

  良子さんよしこやんよっこやんよっこ様々な名でわれは呼びにし  川口秀晴

 仲の良さげな歌ですが、挽歌と思えば上の句いっぱいの名前の連呼がせつなさでいっぱいになります。ずっと名前で呼んでいたという関係性も見え、「良子」という名前もなにか絶妙です。

  亡き君にいまも友あり自転車で取れたての豆とどけてくれたり  西山千鶴子
 
 きっともう作者宛てに豆を届けているのだろうし、自転車の距離なのでご近所付き合いでもあるのでしょうけれど、自分の交友ではなく亡き君の友という把握に「君」に対する尊重の思いを感じました。

  モッコウバラじゃんじゃん咲けよ人類が鳴りを潜める卯月の道に  中井スピカ

 命令系が気持ちいい。上の句と下の句のひらがな漢字の表記のバランスも内容に合っていると思いました。今年の4月はほんとうに人類が鳴りを潜める感じでした。

  しばらくは商店街の会合もなしと決まりぬ今日の会合  坂下俊郎

 深刻な状況ですが、リフレインでオチがついておかしみが感じられます。定型にしっかりハマっているのも効果的。

  俊太郎が今日出ていったと電話せりかつてわが子に去られし母に  垣野俊一郎

 かつて母の元を去ったわが子こそが自分で、家族の歴史がくり返されているのですね。今の自分の寂しさの一番の理解者は、同じ経験を持つお母様であるということに気づき、母の心を思うのでしょう。

  想像の最後に君がいなくても埋めていこうとスコップを買う  濱本凛

 心を「埋める」というような比喩だと思って読んでいたら、結句でスコップを買っているので、物理的に埋めるのか! と驚きました。

  冬の夜わたしの影が9号線沿いの田んぼに自転車を漕ぐ  田村穂隆

 自転車を漕いでいるのは自分なのに他人事のような詠いぶり。この影は実景ではなく心象なのでしょうか。冬に自転車に乗れて田んぼがあるという地域性の味わい。

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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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