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川が好き。山も好き。
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 篠田節子『女たちのジハード』を再読。初めて読んだのは19歳の頃だったかと思う。今読み返しても充分に面白くて一気に読んでしまった。同じ会社に勤めるOL5人の話。読んだ当時は社会に出ていなかったけれど、今読み返すからこそ身につまされるものもあった。
 というか、なんでこうした小説を社会に出る前に読んでいながら、その後の人生に活かせなかったのだろう。地元がど田舎過ぎて、両親や親戚、周りの大人達、学校に来る求人等、みんなブルーカラーばかりで、サラリーマンやOLといったホワイトカラーの職業は小説やテレビの中だけのファンタジーのように思えてたのかもしれない。自分とは関係のない都会のお話といった感じで、なんだか遠かったせいか、内容のほとんどを忘れていたのだった。
 覚えていたことといえば、競売のことと、男の人は仕事の付き合いで風俗に行ったりする、などというどうでもいいことばかり。その後、お笑い芸人さんのラジオをよく聴いていて、ほとんどの人が風俗に行く話をするし、時代小説を読めばどの侍も町人も吉原や岡場所に普通に行くし、男の人というのはそういうもの、という認識が自分の中でできてしまった。それは、たとえば自分の恋人が風俗に行っても男の人として普通のことなので気にしない、というぐらいの感覚のズレをもよおした。だから友人の旦那さんが「そういうところに行く人は人間の種類が違う」と言っていたと知り、「え? そうなの?」と、ほんとうにびっくりした。今は、風俗に行く男の人にちゃんと嫌悪感が沸く。これは女性として普通の感情だと思う。以前はどこまで心が広かったのだ、わたしは。

 バブル崩壊直後に出版された『女たちのジハード』には、OL達より上の職業としてスチュワーデスという言葉がちょいちょい出てくる。スチュワーデス、確かに華やかではあるけれど、今だったらそこまでみんなのあこがれの職業だろうか。今だったら、というか今だったら普通のOLだって充分恵まれてるような気がする。いくらやり甲斐がなかろうが、お局になって居場所がなくなろうが、ボーナスの出る正社員というだけでも充分恵まれてるような気がする。ただのOL、すら今やあこがれの職業なのではないか。
 結婚に焦る年齢も今だったらプラス5歳ぐらいな気がする。登場人物の一人は「24歳までに結婚しないと」と焦っているけれど、当時はそうだったのだろうけれど、今は24歳って早婚なイメージ。今だと24歳って早婚のイメージだけど、妊娠出産等の肉体的体力的な面から見ればやっぱり適齢期は今でもそれぐらいなのかも、とも思った。

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アイコンにしているこけしはわたしが本格的に(?)こけしを好きになり始めた時に買った携帯ストラップです。

  こけしこけしこけしが欲しい胴をにぎり頭をなでて可愛がりたい

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もう何度も書いていることだけれど、お酒が飲めない。体に合わないらしく、楽しい気分になったこともないし、具合が悪くなって吐いてしまう。
 と、いうことをうまく伝えられず、お酒の席でお酒を勧められたり、注文や購入すらされてしまうこともある。なんとかやんわり断ろうとして、その場の空気を盛り下げてしまい、申し訳ない気持ちになったりする。お酒を飲む人は、良かれと思って勧めてくれるのだから。わたしも、飲めない分、ウーロン茶でも精いっぱい楽しくふるまっているつもりではあるのだけれど、やっぱり足りないのだろうか、と反省したりする。
 それにしても、お酒を飲む人の、他人にもお酒を飲ませようとする心理はなんだろう。こんなに踏み込んでぐいぐい勧められるものはお酒以外にはなかなか、ない。お酒を飲んで具合が悪くなる、という事実を想像できないくらいにお酒が良くって、素面でいるのがかわいそうだったりするのだろうか。人の酔っている姿を見たいのだろうか。自分は酔っているのに他人が素面なのはおもしろくない、ということなのだろうか。
 とはいえ、お酒を飲める人の方が楽しそうだし、お酒を飲んでいない時でも生き方など大らかで柔軟そうに見えるし、うらやましい。ほんとうに、うらやましい。

 お酒を飲めないわたしだけれど、最近、たぶんお酒のような心地だろう、というものを覚えた。不眠で処方された眠剤である。もともと薬嫌いだし、昔は薬で眠るなんてこわい! と頑なに拒んできた。けれど、どうしても眠れない時や、眠るよりほかないぐらい心が疲れている時、スッと眠れるのはいい。寝入りばな、ふわふわしてなにやら心地良い。この感じは、お酒を飲む人がお酒を飲む感覚に似ているんじゃないか、と思っている。どうだろうか。もちろん、溺れるつもりはない。

 ひどいパワハラに遭っていた時など、夜は寝つけず、朝は早朝覚醒で、睡眠不足で体の疲れはとれないし、心のバランスも崩していた。あの頃、素直に眠剤のお世話になってちゃんと眠っていたら、ちゃんと頭が働いて仕事での理不尽なこともうまく立ち回れたんじゃないか、と思う。
 お酒も飲めていたら、あのつらい日々もお酒に逃げることができて、もう少し楽に生きていたのかもしれないし。

  酔えもせず吐いてしまいぬ ああわたし何処へも逃げる場所がなくって

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父も母も畑に出でて療養中のわたしはせめて食事を作る

  服薬をするために食む朝ごはん晩ごはんなり少し肥えたり

  おすそ分けされたり隣の逸希ちゃんの七歳誕生日祝いの餅を

  夫や子の歌をわたしも詠いたしナスの肉詰め揚げる菜箸

  こんなはずじゃなかった今を生きているただ生きているまた朝がくる

  心病むおとうとが居間のテーブルの周りをぐるぐる回っておりぬ

  大吉を当てたり祖父の命日の墓参ついでにおみくじ引けば

***

 今号は十代・二十代歌人特集がきらきらまぶしい。

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携帯電話を持つのが遅かった。そもそも電話自体が得意ではなかったので、持ってないからといって不便を感じたこともなかったし、「今時、携帯電話を持たない流されないわたし!」みたいな変な自意識もあった。
 携帯電話にメールの機能が備わり始めると、連絡先としてメールアドレスを教えてもらうようになることが多くなった。辺りを見渡せばばみんな携帯電話に向かって指を打っている。自分以外のみんながメールで繋がっているような疎外感を覚えた。それでも、携帯電話を持ったら自分が変わってしまいそうで、20代後半になって仕事の都合で持たされるまでは持たなかった。

 携帯電話を持つようになって数年、いつしか辺りを見渡せば今度はみんなスマートフォンに向かって指をすべらせている。そうして、フェイスブックやLINEなどのSNSで繋がっているようである。ああ、既視感。携帯電話を持たなかった頃を思い出す。それでも、たぶんわたしはガラケーのままだろうな、ということまでも既視感。尤も、持たないと思っていた携帯電話を持ったように、この先のことまではわからないけれど。

 繋がり過ぎるくらい繋がってゆくような時代になって、かえってこの頃、生身の関係を思うようになった。会える人とは会いたい。声が聞ける人なら聞きたい。目の前の、手の届く繋がりを大事にしたい。手紙を書くのもいい。便せんを選んで、切手を選んで、明日あさって届く誰かの未来に向かって言葉を綴りたい。

  変換に慣れた右手で辞書を引く少し真面目な君への手紙

***

 ネギと鶏肉の卵とじ。蓋付きのフライパンが便利でした。

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この頃、部屋うちのいろんな物を処分している。まだ使うかもしれないから、思い出があるから、と、物をため込みがちな性分であったけれど、思い切ってみれば思いのほか捨てることができそう。
 昔買った本、漫画、CDなど、発売日を楽しみに待ったり、何度もくり返し楽しんでいたものもあったけれど、いつしか好みが変わってしまって、今ではほとんど気持ちが動かないものがある。ゲームなんてもう全然しない。録りためていたビデオも、今さら見返したりしない。絵はもう描かなくなったから、昔描いたヘタクソな絵も、絵を描く道具ももういらない。絵の資料にと取っておいた人物のポーズの切り抜きも、背景用の景色の資料も今やごみでしかない。

 こうしていろんな物を手放してゆくうちに、残せるもののなにもない人生だった、と思う。それらに夢中になっていた時間も、お金も、なにより心が、とても空虚だったように思えてきて、わたしなにやってたんだろうって、落ち込む。夢中になっていた頃は、ずっとその気持ちが続くと思っていたのに。あの頃はどうかしてたなんて、過去を否定してしまうなんて、なにも積み重ねられなかった自分のような気もして。

 今好きなものも、これから好きになるものも、いずれ好きじゃなくなってしまうのだろうか。好きだといっていた自分を恥ずかしく思うようになってしまうのだろうか。そんな未来を思えば、なんだか無欲になってしまうのだった。

  いつまでも仮住まいなるこの部屋でいつか誰かと鍋をつついた

***

 おやつが食べたくなったので、あり合わせで饅頭を作ってみました。水と砂糖と市販の天ぷら粉で皮を作り、餡は茹でたさつまいもをつぶして砂糖を混ぜて。蒸し器の代わりに湯を沸かした鍋にざるをセットして蒸かしました。ちょっと中華まんみたいな食感にできあがりました。天ぷら粉にはベーキングパウダーが入っているので膨らむのです。
 本来は、水と砂糖と、ふるった薄力粉とベーキングパウダーで皮を作ります。砂糖を黒砂糖に代えるとおなじみの黒皮の饅頭になります。

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日曜は畑と決まり休みなど休みでないのだ兼業農家は

  仕事終え夕飯ののち市場へとモロヘイヤ出荷しに行くトラック

  町に野に働き者の母なればわたしは曾祖母に育てられたり

  今さらに迷信だとは思われず年寄りっ子の三文安は

  家にもうお金がないと通帳を二冊投げつけ母の嗚咽は

  「田宮さんて美人だよね」と言われたまま美人になってしまえばよかった

  こけしこけしこけしが欲しい胴をにぎり頭をなでて可愛がりたい

  くり返し「寂しい人生だ」とつぶやけば祖母に「楽しい」と訂正される

  そうだ日記書かなきゃ日記きっと読み返したくなどならない日記


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ながらみ書房『短歌往来』10月号〈期待の新人〉に、短歌五首と、小文を掲載していただきました。お読みいただければうれしいです。

 せっかくのポートレート掲載なので、こけし愛、及び東北愛を込めて、こけしTシャツを着てみました。わたしの一張羅です!

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 実家に帰っている時に、犬の散歩をするようになった。我が家は昔からずっと犬を飼っていて、わたしが知っているので5匹目くらい。わたしはこれまでどの犬も格別かわいがったことはなかった。犬の他にウサギやインコを飼っていたこともあるものの、そもそも動物自体にあまり興味を持てなかったようで、わたしって冷たいのかな、と心密かに悩んだりもしたものだった。

 今頃、やっと犬の散歩ができるようになった。今の犬が格別かわいい、というわけでないけれど、今、不思議に犬をかわいいと思えるようになった。今の自分に、犬という存在がなにか合ったのかもしれない。なにより、犬がわたしを好きそうなのがいい。なにもない実家に居ると引きこもりがちになってしまう。一人では億劫だけれど犬と一緒ならどこへでも行ける、そんな気がして、犬小屋から犬を放ち、犬と一緒に農道へ走り出す。そういえば、毎日の通勤で40分ほど歩いていた頃に比べ、めっきり運動不足になっていた。あの頃は、好きな道、好きな景色の中を歩けたから、歩くことが苦じゃなかった。今は、少し、しんどい。だから犬に引っ張ってもらって、わたしのために散歩する、そんな感じ。お決まりのお散歩コースである農道はなつかしい草の匂いがして、一面の緑は目に心地いい。
 畑の中でいろんな人に会う。農作業する近所のおばあちゃん達に「(母の名)ちゃんの娘だが?」「ともちゃんだが? (妹の名)ちゃんだが?」と聞かれたりする。わたしは相手を知らないのにわたしは知られていて、隣県での一人暮らしとは違っていて、ああ田舎だなって、むかしは窮屈だったけれどこういうのもいいかもしれないなって思ったりしながら少しの間、談笑したりする。
 部活で山の中を走っていた男子中学生達に「こんにちわー」と声をかけられたりする。思いのほか礼儀正しい。わたしの代とは違う学校指定ジャージ。まぶしいほどに健康的。未だに子供っぽいわたしだけれど、向こうから見ればわたしはおばさんなんだろうな、と思う。
 ビニールハウスとふすまで作られた小屋からなにか声がして、気になって仕方ないらしい犬に引っ張られて行くと、ヤギがいた。ヤギなんて初めて見た。飼い主の人がやってきて「友達になりたいんでしょう」と近くに入れてくれた。破れたふすま越しに交歓を図ろうとするヤギと犬。いじましい。それ以来、ヤギのところにも寄るようになった。楽しそうで。

 犬の散歩を終えた後は、夕飯を作る。農作業用の小屋からその日その日に獲れてある野菜を持ってきて、料理をする。夕方5時になると、どこからか『夕やけこやけ』が流れ出す、チャイムのように。

 犬がわれに飛び寄る時のまなざしを覚えていよう探してゆこう

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仕事の帰り、雨の中、横断歩道先の図書館に寄ろうと赤信号で立ち止まっていたところ、側にいた女性が「信号待ちの間だけでも入りませんか?」と傘に入れてくれた。思いのほか信号の色の変わるまで時間があり「最近涼しくなってきましたね」「雨が多いですね」「土砂災害のニュースもありますし心配ですね」なんて他愛のない話をした。一緒に横断歩道を渡り終えた後、「ありがとうございました」とお礼を伝えて別れた。わたしより先に歩き始めた彼女は、傘を閉じてわたしの目的地であった図書館に入って行った。同じ所に行く人だったのか、と、ちょっとびっくりした。
 年齢はわたしと同世代くらいの、きれいで聡明そうな女性だった。なにより、優しい人だと思った。こんなふうにさりげなく他人に親切にできる心が、ほんとうにすてきだと思った。そういう優しさで世界が回っていけばいいのに、と思った。
 図書館で、角川短歌の今月号を読んだ。泣きながら読んだ。

  雨の日に歩道橋下ちぢこまる毛布の横を足早に過ぐ

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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
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