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川が好き。山も好き。
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パスタを茹でようと鍋にたっぷりのお湯を沸かして、沸くまでの間を大家さんに提出する書類を書いていたら、なんだか調べなきゃわからないこともいくつかあって、別な書類を引っ張り出したり、ネットで検索しているうちに、鍋のことなんてすっかり忘れてしまって、台所からぶくぶくぶくぶく変な音がして慌てて駆けつけたら、お湯はすっかり蒸発して鍋の半分くらいになっていました。

 このての物忘れを、この頃よくするようになりました。このあいだは片面に程よく火が通ったらひっくり返そうと思っていたお好み焼きを、ひっくり返す前に焦がしてしまいました。煮物が煮詰まり過ぎたこともあります。火の側を離れなければいいのだけれど、頃合いまでただただ火の前でじっと待つというのはなんだか時間がもったいなくて、特に今の季節は台所兼廊下は寒いので、すぐ隣の自室に行きたくなります。そうして、少しだけ何かの作業をしたら戻るつもりが、数分して忘れてしまうのでした。
 こんなことは昔はありませんでした。明らかに老いです。観念してキッチンタイマーの切れていたボタン電池を買ってきました。もう自分のことは信じられない、素直にタイマーを頼りましょう。けれども、そのうちタイマーのことも忘れてしまったらどうしよう。先行き不安です。

 先月末に発売された別冊太陽『石垣りん――鍋とお釜と燃える火と』の特集号を読みました。わたしの中で石垣りんの詩や随筆は、なんというか圧倒的に別格で、もう人生の半分以上をくり返しくり返し愛読しています。
 それでも、最晩年の様子などはこの冊子が初見でした。あんなキレキレの詩や随筆を書いていた詩人にも、老いは訪れてしまって。身近にいてお世話をした方による貴重な証言とはいえ、こんなことまで明かしてくれないでいいのにな、と思うほどでした。足の踏み場もない部屋のことを御本人が自ら随筆で自嘲気味に書いていたとしても、人を入れるのは嫌がっていたというその現場の生々しい写真まで公開しなくても。本当の姿を知ってほしい、ファンだからなんでも知りたいという考えもあるのかもしれないけれども、尊厳にもかかわることのような気がしてなりません。
 家族のしがらみから解かれて五十歳から始めた石垣りんの念願の一人暮らしは、老いやご病気のため終了することになったけれども、その最終的な決定打は、台所のガスの消し忘れだったようでした。

 ネギを買っておいたのに、実家からもネギを送ってもらってネギがたくさんあったので、ネギのパスタにしようかなと考えていたのですが、一緒に送ってもらった春菊がしおれかけていたので、春菊と鯖缶としめじのパスタにしました。春菊なんて子供の頃は苦くて苦手だったのに、いつのまにかその苦みが風味のように感じられるようになり、好きになりました。年を重ねるのも悪いことばかりではありません。

  ワンコインランチにあれば具はベーコンのみなるチーズパスタとコーヒー/塔2019年2月号

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プロフィール
HN:
おとも
性別:
女性
自己紹介:
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/本体¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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