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川が好き。山も好き。
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先月は山形市の遊学館へ、柚月裕子さんのトークイベント「山形で書くということ」に行ってきておりました。ちょうど会場の時間ぐらいに着いたのですが、建物の中をぐるっと並んでいて、わたしの人生の中でたぶん一番長い行列でした。
 柚月裕子さん、山形市長の佐藤孝弘さん、KADOKAWAの山田剛史さんの3人が登壇されての対談でした。地方出身・在住者として、地方で、中でも地元にお住いの方のご活躍はうれしく、なにか励みにもなります。馴染み深い地元のお話も楽しかったですが、震災の経験なども通して「継承」というテーマが印象に残りました。
 お話のエピソードから、予習で読んでいたエッセイによく出てくるYさんが、登壇されている山田さんなんだとわかり、小さな感動を覚えました。また、市長は柚木さんの作風と実際のご本人にキャップのあることをしきりに仰っていました。ご本人も、書店回りの際に「岩下志麻さんみたいな人を想像していた」とよく言われるのだと笑って答えておりました。ハードボイルドな昭和のヤクザもの=極妻=岩下志麻、みたいな想像は安直ではありますが、確かに文字だけの情報で人物像を想像してしまうことはあり、よく考えたらそれは少しあやういことでもあるように思ったりもします。自分の思い込みや理想、偏見などが投影されてしまっている気がして。それで実際の姿を知って「あ、こういう感じなんだ」と落差のようなものを感じてしまうのも、思えば不思議なことです。

 たとえば太宰治の小説をおもしろく読んでおきながら、数々のエピソードを知ると、この人とは関わりたくないなあと引いてしまう。実際の彼の振る舞いは何も知らないのに、われながら勝手です。もしも直接会ったら、勝手なイメージとは違ってとても魅力的だった、ということもあるかもしれないのに。
 十年以上前のことではあるけれど、匿名で熱烈なメッセージをいただいたことがありました。わたしの歌や文章を読んでなにかしらのイメージを抱かれたらしいその人は、わたしがその人の持つイメージとは違ったことをしたりそうしたことを歌に詠んだ時に、今度は暴言というか中傷というか嫌なメッセージを送ってきました。誰だかわからない人が、生身のわたしを知っているわけでもないのに、想像でイメージをふくらませて思いを募らせたりぶつけたりしてくることに、なんともいえないもやもやとしたものを感じました。こうした経験があるので、どうにもSNS等には消極的でいます。身構えてしまう。そうでなくても、なんだか文章では攻撃的な人が実際に会うとモジモジしていたり、会っていて無神経なことばっかり言ってくる人が美しい文章を書いていたり、作品や文章と実際の印象が揺らぐことは時々あります。きっとわたしもそうでしょう。イメージしていた通りかもしれないし、イメージとは違うかもしれない。そのイメージが良いものなのか、悪いものなのか。それによって違ってくるものもあるでしょう。

 作品や文章だけで、(または属性も含めて)、その人を知った気になるのはまだ早い。その人がどういう人かは実際に会ってから、自分の目で確かめてからだ。
 と、つい最近まで思っていたのだけれど、文章で変だなと思った人には会ったら絶対ダメ、会ったら取り込まれてしまう、というような話を聞きました。確かに、サイコパス系の犯罪者や口の上手い詐欺師など、いくら自分は騙されないぞと思っていても実際に会って話したら言いくるめられて洗脳されてしまうのかもしれない。そうした事件のニュースやドキュメンタリーもいくつも見ました。そう考えたら、それこそ太宰治なんて。会ってもしコロッと虜になってしまったら、他の女性達のようにあんなことに巻き込まれてしまうかもしれない。自分は大丈夫、なんて自信がない。
 会わないとわからない人もいるけれど、会ったらダメな人もいる。難しい。
 
  明日会う人を好きにはならないと思う小さな湯たんぽを抱く

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おとも
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自己紹介:
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/本体¥2000)

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