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川が好き。山も好き。
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過日、母の付き添いで野口五郎のコンサートに行ってきました。そのひと月前にせがまれてチケットを2枚手配してあげた時はまさか自分が行くとは思っていなかったのですが、どういうわけか出発直前にわたしが行くこととなりました。こういう成り行きもまたおもしろいものです。

 野口五郎氏はそりゃあもう流石のプロフェッショナルなエンターテイナーっぷりで、とても楽しいコンサートでした。薄暗いホールの中で真っ白な衣装がライトに照らされてまばゆく映えて、高音の伸びやかな歌声も素晴らしくて。
 ご本人もファンのほとんども60代なのに、曲目が10代20代が主体のラブソングばかりなことを興味深く思いました。「青いリンゴ」「甘い生活」「私鉄沿線」などは若い頃のヒット曲だから、というのもあるけれど、近年の歌もやっぱりラブソングです。齢を重ねてもアイドルなので疑似恋愛の対象ということでしょうか。
 考えてみれば、彼に限らず、世の中の流行歌は大体がラブソングです。

 文と詠めば恋文と読まれたり、指輪と詠めば結婚指輪と読まれたり、短歌の世界でも相聞歌が求められているという空気を感じることがあります。数年前まで『短歌研究』では毎年2月号に女性歌人による相聞歌の企画がありました。新人賞の応募作に相聞歌が少なくなったことを惜しむような文章もどこかで読んだことがあります。大河ドラマ『光る君へ』では倫子さまが歌のサロンの仲間に「良い歌を詠むためには良い恋をしませんとね」と微笑んでいたし、少し前の朝ドラ『舞いあがれ!』では主人公の幼なじみの貴司くんが歌集を作る際に、編集者から相聞歌を詠むよう求められていました。

 わたしも、これまでいくつか相聞歌を詠んだことがあります。けれども、ほんとうに相聞歌だったのか。歌に嘘を詠んだということはないけれども、人としての好感を恋に、人の心離れの傷みを失恋の傷みに、盛っていなかったか。他に適当な言葉が思い当たらず「恋」と詠み込んでいた歌なども、実際は別の感情ではなかったか。

  恋人が欲しいと思っていたけれど本当に欲しいのは兄だった/田村穂隆『湖とファルセット』
  あなたとは恋じゃないから続いてく気がする テレビを見てて思った/長谷川麟『延長戦』
  私はただ結婚したいだけなのにみんな恋愛させようとする/逢坂みずき『昇華』

 自分の心に向き合った、こうした歌に誠実さを感じます。そうして、わたしは便宜上「恋」という言葉が都合がいいので、或いは相聞がウケるとわかっていて、もしかしたら相聞ではないものまで相聞のように詠んでしまったかもしれない、という自分への疑いの心が湧くのでした。

  でも恋は皆するという前提で問われる沁みるラブソングなど/塔2024年4月号

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おとも
性別:
女性
自己紹介:
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/本体¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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