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川が好き。山も好き。
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仕事帰りによく寄っていた書店が一昨年の夏に閉店してから、本屋が遠くなったように感じています。少し足を伸ばせば別な書店はいくつかあるのだけれど、仕事帰りのくたびれた夜に足を伸ばすのは少しの距離でもおっくうで、書店への頻度は今では月に一度くらいになりました。代わりにネットショップを活用、というようなこともなくて、遠くなったのは心だ、と感じています。本が嫌いになったわけではないのに。なにかしら常に本を読んでいたいのに。尤も、塔の結社誌を読み切るだけで時間はかかるし、昔買った小説などはほとんど内容を忘れてしまっていて再読したら新鮮だったりして、もともと新刊を追っかけるタイプではなかったこともあり、新しく本を買わずとも間に合ってしまっているところもあるのかもしれません。

 早番の仕事帰りや遅番の仕事前によく寄っていたコーヒー店も一年前に閉店してしまいました。コーヒーを飲みながら本を読んだり、携帯電話や何かの余白に書き散らかした短歌をノートにまとめたりするのは大切な時間でした。もちろん、それほど足を伸ばさなくてもあちこちにコーヒー店はあって、なんなら職場のビルのテナントにも入っています。自分と同じような人があちこちの席でそこそこ長居していて自分がその他大勢でいられるような居心地はなくとも、しょうがない。コーヒーを飲みながら読書や物書きをすることが好きなのは変わらないのだし。

 震災の少し後あたり、この先ああなったらどうしようこうなったらどうしようと未来を悲観して不安になって、日常生活に支障が出るほどに不安感に押し潰されてしまって、不安を落ち着かせる薬などを処方してもらっていた頃がありました。もう服用をやめて数年経ちます。
 ふと、今の自分が、あの頃の自分が恐れていた想像そのままを生きてしまっていることに気づきました。こうなりたくない、と恐れすぎて強く思うあまり、それ以外の未来を思い描けずに、無意識にそうなるように生きてきてしまったのでしょうか。あがいてもあがいてもこっちに戻ってきてしまい、この頃はもうあがく気力もなくて。
 こうなりたくない未来を現実として迎えてしまったのに、あの頃に服していたような薬も必要なく暮らしてゆけています。こんな現実を乗り越えられるほど強くなったわけではないのに、不思議です。不安な気持ちに蓋でもできているのでしょうか。昔より鈍感に、わたしが変わったのでしょうか。考えてもどうせわからないので、とりあえずこのまま生きてみます、できれば少しあがきつつ。
 
  服用の薬の欄は空白になりたり瓦礫のように十年

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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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