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川が好き。山も好き。
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塔9月号、800号記念特集、座談会や評論ずっしり読み応えあり、アンケートの匿名ならではの本音感もおもしろかったです。敬称略です。

  どくだみの根を抜いてゆく快感は根を抜かれゆく快感に似て  花山多佳子

 根を抜かれゆく快感とは。そんな経験ないのに不思議な比喩に妙に納得して、雨上がりの湿った土のからだから根を抜かれたくなってしまう。

  木の陰に待ちゐし父を面影にたたせて荒れし庭に入り来ぬ  仙田篤子 

 ご実家を手放す一連。面影が見えるのではなく、自分でたたせているというところに覚悟のようなものが見えます。

 「生きたい」と不意に湧ききて錠剤をひと粒のんで接種会場へ  立川目陽子

 少し元気のない時があったのでしょうか、不意に生きたい気持ちが湧いてからの行動力、特に錠剤のくだりに実感と迫力を感じます。

  終戦の年に一年生ですよ教科書なんぞなんにもなくて  渡辺のぞみ 

 定型にきっちりおさまっているのに、語り部の自然な語り口そのままのよう。結句の言いさしもリアルで胸に迫ってきました。

  となり家の二歳児泣けばもっと泣けその元気欲しもっと泣けもっと  相馬好子

 命令系とリフレインが激しくも、優しい。二歳児の元気な大泣きに、心の中で発破をかけているのでしょう。

  スイッチを入れればオウム返しするクマに「がんばれ」三度言わせる  山田恵子 

 <形容詞過去教へむとルーシーに「さびしかった」と二度言はせたり/大口玲子『海量』>の歌が下敷きなのでしょう。癒しの玩具であるテディベア。オウム返しさせるために自分で最初に言った「がんばれ」があるということ。

  完治せぬ病をやうやく受け入れぬあぢさゐの花あふれ咲く日に  杉之原壽美

 上の句と下の句のつながりに惹かれるものがありました。気持ちが動いたその日に、あじさいが咲いてた、それだけのことかもしれないけれど。

  六月のカレンダーのまっさらに田植えの予定を太く書き込む  高原さやか 

 なんとも気持ちの良い歌です。まっさらなカレンダーが田植え前の田んぼのようでもあり。

  走って走って黄色いバスに乗れた人よかったねえと遠くから見る  寺田慧子

 作者と一緒に、走っている人を見守っているような気持ちになりました。「黄色いバス」が効いています。

  十四歳迎えてすぐの暑い日に戦争敗けて飢えていました  西村美智子

 下の句の率直さと舌足らずな詠いぶりが、遠い過去のこととして物語化されているような雰囲気もいじましい。

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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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