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川が好き。山も好き。
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昨日に続いて花山周子さんの第三歌集『林立』について。

  放り出されてしまったようなわがからだ冬の日差しを吸って軽いな

 もしかしたらつらい歌なのかもしれないけれども、なにか全身で詠っているような伸びやかさ。初句の字余りと結句の口語がきまっています。

  杉山に人は孤独に散らばって文明開化の音を聞くべし

 この歌は声に出して読みたくなる歌。わたしは意味がうまく取れないのですが、映像を浮かべるとなにか見えてきそうな気もするのです。

  国木なき日本にたびたび起こるとうスギを国木にせんという意思

 杉について、日本の歴史について調べてそのように感じたのでしょうか。「たびたび」という言葉選びがおもしろくも深い。

  春になり物差しもわずか伸びていん本にあて本の束を測りぬ

 ほんとうに物差しが伸びているのでしょうか、春の気分がそう思わせているような、叙情的なお仕事の歌です。

  霞ヶ関農林水産省内林野庁図書館へと堅牢な昭和の廊下を歩む

 なんといっても「霞ヶ関農林水産省内林野庁図書館」の固有名詞の力。

  友の子のまた増えにけり生まれた子しばらく抱けり友のとなりで

 「また」というからには3人目くらいか、生む人は少子化とかどこの国の話ってくらい生む。しばらくの間を友の子を抱きながら、何を思ったかを言わないところに余韻があります。

  石切り場の先に墓地ありその奥に火葬場のあり香貫山の麓

 先、奥、麓と順に景が見えてくるにつれ物語も見えてくるというか、人の気配はないのに、人の暮らしや思いがにじみ出てくるようです。

  簡単に手は放されて手は泣けり生きているのが厭だと泣けり

 なんとも不思議な表現なのですが、なにかとてもつらくくるしいということが伝わってきて、手が別人格を持っているというより、もう全身で詠っているような印象です。

  千代田線は常磐線に切り替わり背高泡立草に雨降る

 あとがきにも背高泡立草のことが書かれてあって、おもしろかったのです。何気ない属目詠のようでいて、象徴的な意味が込められているのでしょう。そして東京の路線の味わい。

  弟が出たり入ったりする家の付けっぱなしのテレビの前に父

 ぐねぐね装飾しながら父に着地するのがおもしろく、動の弟/静の父というような対比も。

  正月明けに引っ越したことにも思い及び異様に長き睦月は終る

 新しい暮らしの一日一日が新鮮で充実していたのでしょう。「思い及び」という妙な理屈っぽさ。似たテーマの<春になれば桜が咲くのを知っている目黒川にまず長い冬がある>という歌もあり、こちらは春の待ち遠しさが冬を長くしているようでもあり。

  瓦礫を見んと顔あげるとき海風は向かい風なり目に瓦礫入る

  五月に行った大槌町のことを思う今は秋、既にないだろう瓦礫も

 震災の歌、破調の多い作風ですが、特にこのあたりの歌はもっと言葉を整理してすっきりできるんじゃないかとも思いつつ、やっぱりこの文体によって沁みてくるものがあるのです。

 『林立』は、日常の歌の中に、杉をテーマにした表題作の連作「林立一~七」が制作時期の順に挿入されてくるという構成がとても良くて、一冊通して読むことで深まる感慨というものがあります。現在形の歌の多さも特徴的に思いました。過去の国の政策や歴史も、今と地続きであるという感覚によるものなのかもしれません。ひらめいたことや関心を持ったことにとことん没頭する姿勢や、定型に捉われない歌いぶりなどに、芸術家肌を感じました。

花山周子『林立』
http://www.honamisyoten.com/bookpages/ST201814023.html

ランリッツ・ファイブ
sites.google.com/view/ranritsu5/

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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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