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川が好き。山も好き。
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塔6月号を読みましょう。敬称略です。3月20日〆切分、世の中がざわざわしてきて、テレワークが始まったり学校がお休みになった頃でしょうか。

  いのししが四頭捕れて一頭を丸焼きにしようと誘いの電話  小島さちえ

 豪快さに惹かれました。野性的な歌なのに、結句で「電話」という文明の利器がでてくるのもおもしろいです。残りの三頭はどうしたのでしょう、気になります。

  思ふほど夫は不自由してをらずやきそばの残りが冷蔵庫にある  豊島ゆきこ

 作者の入院の一連から。自分がいないことに困っていればよかったのに、というようなガッカリ感を感じるのは、2首目の「この世からこぼれてしまつた媼たち」という言葉のせいでしょうか。冷蔵庫で冷えた焼きそばが寂しい。

  逝きし子が幾度か入浴せしという銭湯の前を散歩してみる  石飛誠一

 わが子を悼む歌で「銭湯」というのが珍しいと思いました。側を通るだけで、湯に浸かったりはしないのでしょうか。まだ追体験はできない、といった心情なのかもしれません。

  ずっと死にたかったのですと言いながらホットケーキを注文しおり  中山悦子

 思いつめたような吐露の内容と、「ホットケーキ」の取り合わせ。ですます調も関係性なのかキャラクター性なのか想像がふくらみます。ホットケーキなだけに。

  家を出し子の帰らぬに母ひとり雛飾りたり雛納めたり  加藤宙

 「帰らぬ子」なので、独立したというよりは家出や失踪のような印象です。下の句の畳みかけが、形式的な行事のようでもあり、いつまでも飾っていて嫁に行き遅れないようにという祈りのようでもあり。

  おかえりといつでも言うよ長崎の港に戻る船に向かいて  寺田裕子

 一首で読むと気持ちのいい港町の歌で、もちろんそう読んでも良い歌ですが、前の歌からこの「船」は長崎で作られたダイヤモンド・プリンセス号のようです。曰くの付いた船に対して、上の句の口語がとても優しくあたたかい。

  『文芸くにとみ』二百余冊に正誤表挟み届ける小寒の朝  別府紘

 なんといっても『文芸くにとみ』の冊子名の味わい。「二百余冊」という数字も絶妙に自分で頑張れそうな冊数です。正誤表挟みという面倒で事務的な作業もこうして歌になるのだなあ。

  水筒に残ったお茶を飲み干して今日という日が今日また終わる  紫野春

 明日また新しいお茶を入れるために、残りを飲み干すのでしょう。今日一日仕事や何かの活動に伴った水筒の残ったお茶、というのが一日を終えての余力や気持ちのようで象徴的です。

  郵便局までの冒険終えしのち子は眠りたり我も眠れり  魚谷真梨子

 塔の月詠を出しに(?)郵便局まで、という何気ない移動を冒険と呼ぶのが楽しい。お子さんにとって未知の冒険なのでしょうし、子を伴って郵便局に行くということもお母さんの冒険なのでしょう。

  管理者の木札各々つけられて石川川に河津桜咲く  村上春枝

 花の季節、大切に管理された桜に木札が付けられている光景は誇らしいものでしょう。桜守はとても難しく専門的な仕事のようなので、込める思いも並々ならぬはず。それにしても「石川川」という川の名前。

  叶っても夢の向こうに生活はありて学費はコンビニ払い  仲町六絵

 夢が叶ったからこそ見えてくる現実もありましょう。「コンビニ払い」がなんとも世知辛い。きっちり定型に収まっているのが歌の内容に合っていていいと思いました。

  引き算をして生きてゆく感動を伝へる会を退会したり  澤﨑光子

 「感動」まで行く仰々しさをセミナーのように読みましたが、断捨離や最近話題のミニマリストなども浮かびます。四句目まで続くまわりくどい会の名前からの結句の「退会」という構成にすっきり感を感じました。

  銀山のパン屋でカヌレを一つ買いカヌレを二つ買う人を待つ  丸山恵子 

 銀山温泉だろうか。相手が大食いということなのだろうか。会計待ちか、待ち合わせだろうか。「人」というのは他人っぽいので友達ではないのだろうか。読めそうで読みきれないのですが、声に出して読むとなんとも楽しい響きです。


 歌会記を注目して読みました。外出の自粛の中、ネット歌会、詠草集配布、お手紙歌会、紙上歌会、メール歌会など各地で工夫して楽しそうです。

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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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