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川が好き。山も好き。
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まだ6月号が来ないうちに5月号を読み終えました! 6月号が届くまで三島由紀夫『花ざかりの森・憂国ー自選短編集ー』を読んでいます。おもしろいです。5月号は2月20日〆切分、コロナの影響が少しずつ出始めた頃でしょうか。敬称略です。

  冬空に白雲輝くひとところ名付けくれたる日の父思う  黒住光

 作者は冬生まれということでしょうか。きっとこんな景色を見てこの名前を自分に付けてくれたのだ、とお父様の心を想像するとあたたかな気持ちになりそうです。

  やさしさを責められており介護職のやさしさは時に弱気であれば  山下裕美

 手を貸したくなるのはやさしさより、事故を未然に防ぎたい気持ちが先に立ったのでしょう。機能が衰えないように手伝わないことも必要な現場。ピアノが配膳台になったり、子を養うために特養へ転職したり、職場の現実の伝わってくる一連でした。

  今度また部屋においでよ白木蓮すぐに掃除の終わる部屋だよ  綾部葉月

 「白木蓮」の位置がおもしろいです。白木蓮に呼びかけているのだとしても、誰かに呼びかけているのだとしても。

  婿さんは娘のことをちゃん付けのままで浮気し別れるという  澁谷義人

 読んでいるこちらまで悔しくなる一連でした。「ちゃん付けのままで」が生々しくて、裏切り感が伝わりました。 そして「婿さん」に皮肉が効いています。

  身ごもる娘を身ごもつてゐたわたしを身ごもつてゐたわが母眠る  一宮奈生

 マトリョーシカのような構成がおもしろい歌です。命のめぐり、家の歴史なども感じて、深い読後感がありました。「眠る」で結ばれるのもなにか象徴的な気もして。

  窓みがき四月を待たむこの時給三十円ほどあがる四月を  沼尻つた子

 初句の入りと、三十円のために待ち遠しくくり返される「四月」のリフレインに悲哀を感じます。三十円でもフルタイムで働けば五千四十円になりますから、これは大きいですよ。より小さく感じる数字を選んだのがテクニカルだと思いました。

  奥底の一番かなしき日溜まりにあなたを置きて餅をつきたし  國森久美子

 意外な結句にびっくりしました。まったく読み切れない歌なのですが、魅力を感じます。 餅付き行為はなにかのメタファーなのでしょうか。餅の白さで明るい印象もあります。

  好物は何やったんと喪主に聞くコンビニに行く口実として  谷口美生

 それっぽい口実を作ってまで抜け出したい場。お父様の葬儀の一連で、どの歌からも、決して良好ではなかった関係がうかがえて、現実的で冷静なまなざしがよかったです。

  万歩計のために歩みて蝋梅のあまきかをりに出合ふしあはせ  安永明

 棚からぼた餅のような感覚でしょうか。健康のためとかではなく、万歩計のために歩むのもなにかとぼけた味わいです。しあわせってこういうものでいいんだよなあと思わせられる歌でした。 

  喫茶店に長い食パン届くのに居合はせし我々のしあはせ  森尾みづな

 しあわせの歌に続けて目が留まってしまいました。滅多にお目にかかれないレアな場面に遭遇したのもしあわせですが、パン屋さんの美味しいパンの匂いや、喫茶店で仲間と過ごすことも含めてしあわせなのでしょう。

  ウェデングのケーキ入刀切り過ぎた尚ちゃんやっぱり離婚したりき  田巻幸生

 縁起が悪い…、というよりは尚ちゃんのキャラクターをおもしろがる歌なのかなあと思いました。ハレの場でもガサツなのだからきっと日常でもやらかして愛想つかされ、の「やっぱり」。下の句の韻律がコミカルな響きです。

  クッキーの匂いがまだするカンカンに君の写真はしまわれてゆく  王生令子

 クッキーの甘い匂いと一緒に、楽しかった日々も閉じ込めてしまうのでしょう。別れの一連で、「憎む」とか「殴る」とかいう言葉が続く中にこういう歌があるのが切なく思いました。

  スーパーをまわるあいだに鯛は売れ町のだれかはめでたいゆうべ  青海ふゆ

 日常のなにげない一コマですが、スーパーの鮮魚コーナーから誰かの慶事まで思いを馳せるのがポジティブでいいと思いました。ぶっきらぼうな言い回しもおもしろいです。


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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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