川が好き。山も好き。
塔4月号を読みます。1月20日〆切分、なんだか遠い昔のようです。敬称略です。
先ず麦わら次に稲わらそして子が無くて祭りの一つが消えたり 酒井久美子
少しずつ形を変えながらも守り続けていたお祭りが、過疎により途絶えてしまうということ。おそらく、子供に装束を着せて神様に見立てたりして行うようなお祭りだったのでしょう。淡々とした詠いぶりがかえって寂しい。
干支のハンコ隅に捺されて父からの賀状は今も文字だらけなり 山下裕美
賀状にお父様の人柄が表れていて、文字だらけで伝えたいことがいっぱいあるのがおもしろくも愛情を感じるし、何より隅に干支のハンコが押されているのがとてもいい。妙な律義さにおかしみがあります。
首のなき地蔵様にも新しき赤き前垂れ子の年となる 澤井潤子
首がどこかに行ってしまったのか、何か由来のある首なし地蔵なのかわかりませんが、どんなお地蔵さまにも新年のための新しい前垂れを作る人がいるということ。人の思いを感じます。赤い色も効いています。
更年期障害の長女がくるしむに何の役にも立たず父とし 歌川功
女性が自らの更年期障害を詠う歌はありますが、お父様によるお嬢様の更年期障害の歌は初めて読みました。というより、お嬢様の更年期障害を心配するお父様を初めて見たような気がして、なにか感動しました。
小学校入試を終えた女の子「ケーキ屋さんになりたい」と言う 畑久美子
小学校入試を自ら望んで受ける子供はおそらくいない、ということにハッとしました。とはいえ、地域や財力、親の向上心などでみんながみんな高等な教育を受けられるわけではないのですから、恵まれた環境に生まれついたということに感謝する日もいつか来るのでしょう。
川沿いの梅のほころぶ三月は自殺対策強化月間 高橋武司
季節感のある叙景からのこの下の句。ひしめき合う感じの字面や、妙に整った韻律が効いているような気がします、梅に誘われて川に飛び込んでしまう人がいるのでしょうか、あまり関係ないとしても取り合わせの味わいを感じます。
この先は危険、立入禁止です。「この先」に入り看板立てる よしの公一
看板を立てる時に禁止側に入って作業をしちゃうのですね。おもしろい感じの歌ですが、境界というものについて考えさせられます。線を引いたとして、そこからくっきり危険と安全が分かれているわけではないということ。たとえば原発の避難区域など。
永遠があるなら雪の夜に食う讃岐うどんの湯気のことかな 大橋春人
永遠とはこれなのだ、と力説したいのではないのでしょう、実際よくわからないし。けれども、自分なりの感慨が郷土愛を交えながら口語で軽く詠われているのがいいと思いました。雪もうどんも湯気も白い。
ありがたき我への言葉を少しだけ引き算をして胸にいただく 澤﨑光子
この謙虚さを見倣いたいと思いました。確かに、ありがたい言葉の中には、本当の気持ちや評価だけでなく、社交辞令やお気遣いやリップサービスが上乗せされているかもしれません。「いただく」という謙譲語の結句がうつくしい。
まだ抱いてない子もいるが年玉の袋五つに名を書いており 宮脇泉
遠方に住んでいるとか、忙しいとか、不仲とか、産まれたばっかりとか、お正月まで会えなかった事情を想像させつつ、どのような子にも平等に与えられる現金。血縁というしがらみ、というよりは作者のお正月の準備にあたたかさを感じました。
ハツ四つ串いつぽんにつらぬかれ鶏は四羽も殺されてゐる 千葉優作
確かに、ねぎまやつくねは鶏一羽で間に合いますが、心臓は一羽に一つしかないのです。動詞が率直なものが選ばれているため残酷さが際立ちますが、動物愛護の主張などではなく、事実を詠ったというだけのような印象がいいような気がします。
ハイハイの孫の写真にアマゾンの段ボール箱が三個転がる 望月淑子
ハイハイ姿を撮れば床の上にあるものが映ります。「アマゾンの段ボール箱」という具体に生活のにじみ出るのがおもしろくて(表記はカタカナでいいのだろうかと思いつつ)、赤ちゃんとの取り合わせも絵的におもしろいと思いました。
***
コラム「わたしの休日」のわたしの担当分は終了です。感想のお言葉をいただくこともあり、とてもうれしかったです。2年間お付き合いくださりありがとうございました。
先ず麦わら次に稲わらそして子が無くて祭りの一つが消えたり 酒井久美子
少しずつ形を変えながらも守り続けていたお祭りが、過疎により途絶えてしまうということ。おそらく、子供に装束を着せて神様に見立てたりして行うようなお祭りだったのでしょう。淡々とした詠いぶりがかえって寂しい。
干支のハンコ隅に捺されて父からの賀状は今も文字だらけなり 山下裕美
賀状にお父様の人柄が表れていて、文字だらけで伝えたいことがいっぱいあるのがおもしろくも愛情を感じるし、何より隅に干支のハンコが押されているのがとてもいい。妙な律義さにおかしみがあります。
首のなき地蔵様にも新しき赤き前垂れ子の年となる 澤井潤子
首がどこかに行ってしまったのか、何か由来のある首なし地蔵なのかわかりませんが、どんなお地蔵さまにも新年のための新しい前垂れを作る人がいるということ。人の思いを感じます。赤い色も効いています。
更年期障害の長女がくるしむに何の役にも立たず父とし 歌川功
女性が自らの更年期障害を詠う歌はありますが、お父様によるお嬢様の更年期障害の歌は初めて読みました。というより、お嬢様の更年期障害を心配するお父様を初めて見たような気がして、なにか感動しました。
小学校入試を終えた女の子「ケーキ屋さんになりたい」と言う 畑久美子
小学校入試を自ら望んで受ける子供はおそらくいない、ということにハッとしました。とはいえ、地域や財力、親の向上心などでみんながみんな高等な教育を受けられるわけではないのですから、恵まれた環境に生まれついたということに感謝する日もいつか来るのでしょう。
川沿いの梅のほころぶ三月は自殺対策強化月間 高橋武司
季節感のある叙景からのこの下の句。ひしめき合う感じの字面や、妙に整った韻律が効いているような気がします、梅に誘われて川に飛び込んでしまう人がいるのでしょうか、あまり関係ないとしても取り合わせの味わいを感じます。
この先は危険、立入禁止です。「この先」に入り看板立てる よしの公一
看板を立てる時に禁止側に入って作業をしちゃうのですね。おもしろい感じの歌ですが、境界というものについて考えさせられます。線を引いたとして、そこからくっきり危険と安全が分かれているわけではないということ。たとえば原発の避難区域など。
永遠があるなら雪の夜に食う讃岐うどんの湯気のことかな 大橋春人
永遠とはこれなのだ、と力説したいのではないのでしょう、実際よくわからないし。けれども、自分なりの感慨が郷土愛を交えながら口語で軽く詠われているのがいいと思いました。雪もうどんも湯気も白い。
ありがたき我への言葉を少しだけ引き算をして胸にいただく 澤﨑光子
この謙虚さを見倣いたいと思いました。確かに、ありがたい言葉の中には、本当の気持ちや評価だけでなく、社交辞令やお気遣いやリップサービスが上乗せされているかもしれません。「いただく」という謙譲語の結句がうつくしい。
まだ抱いてない子もいるが年玉の袋五つに名を書いており 宮脇泉
遠方に住んでいるとか、忙しいとか、不仲とか、産まれたばっかりとか、お正月まで会えなかった事情を想像させつつ、どのような子にも平等に与えられる現金。血縁というしがらみ、というよりは作者のお正月の準備にあたたかさを感じました。
ハツ四つ串いつぽんにつらぬかれ鶏は四羽も殺されてゐる 千葉優作
確かに、ねぎまやつくねは鶏一羽で間に合いますが、心臓は一羽に一つしかないのです。動詞が率直なものが選ばれているため残酷さが際立ちますが、動物愛護の主張などではなく、事実を詠ったというだけのような印象がいいような気がします。
ハイハイの孫の写真にアマゾンの段ボール箱が三個転がる 望月淑子
ハイハイ姿を撮れば床の上にあるものが映ります。「アマゾンの段ボール箱」という具体に生活のにじみ出るのがおもしろくて(表記はカタカナでいいのだろうかと思いつつ)、赤ちゃんとの取り合わせも絵的におもしろいと思いました。
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短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)
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