川が好き。山も好き。
3月号20首評の続きです。敬称略です。
106歳のテルコさん召されテレビ横の定席大きな空間となる さつきいつか
特別作品の「アタラナイヨ」から。テルコさんが大柄な体格だった、というわけでなく、存在感の大きさでしょう。テレビ好きというキャラクター性、また年齢や個人名にも実感があります。
色浅き南天の実に雨粒のひと粒ひと粒空を映しぬ 戸田明美
とても丁寧な観察眼を見倣いたく思いました。若い南天の実に落ちた雨粒に映る、雨上がりの青空。「空を映しぬ」だから主語は雨粒なのでしょうか、おもしろいです。
菊の紋の煙草を父は賜りき 瀬戸の風吹くみかん畑山 田中ミハル
恩賜のたばこも今は昔。健康増進法の制定によって廃止された今でも、お父様の誇りの品なのでしょう。今みかん畑山には煙草の煙ではなく風が吹くのです。
頻繁に猫に会ふから猫道と名づけて今日も抜ける猫道 濱松哲朗
「猫」の字が3回も出てきて、猫に頻繁に会う様子が字面に表れています。同様に「猫道」と繰り返すことで、何度も往来している様が伝わります。楽しい名付けです。
また会いたいなって気持ちはほんとうでぬるい炬燵に賀状を書けり 魚谷真梨子
また会いましょう、は年賀状の定型文。とはいえ本当に会いたくて書いています、わたしも。上の句の句またがりに感情がにじんでいるようです。
坂の下の穭田の畔に腰かけて娘の車の来るを待ちおり 白井陽子
上から下へ素直に流れる歌の作りで、懐かしいような映像が浮かびます。また、家と田の距離や母子関係など31文字以上の物語を感じました。
飲んで泣き泣いては飲んでされど九時過ぎれば飲まぬ泣きはすれども 石橋泰奈
わたしは飲めないのでこの感じを正しく理解できている自信がないのですが、九時という明確な時間できっかりお酒を切り上げる妙な自制がおもしろいです。
エビちゃんを主婦の雑誌で見ておりぬ誰もきょうより若くはならない 淵脇千絵
OLのアイコン的存在だったエビちゃんも今や主婦。かつてOL向け雑誌を読んでいたのが今は主婦雑誌を読むように、作者もエビちゃんと同様に年を重ねるという感慨でしょう。。
葉を散らすことも花咲くこともない電信柱を染める秋の陽 吉原真
「ない」とあえて詠うことで葉や花をつけた電信柱の絵が浮かびます。生物のような電信柱を想像するとメルヘンチックな気分になりました。
京町屋改装したる私塾ゆえ開講の夜にともる提灯 仲町六絵
なんて趣のある私塾でしょう。文化や歴史を大切にする心が伝わります。提灯に焦点を当てたのがいいなと思いました。
子の巣立つたびに実家に犬はふえ父の庭には犬小屋六棟 百崎謙
お父様の寂しさの伝わる歌ですが、「犬小屋六棟」に笑ってしまう。六人巣立ったのでしょうか。犬小屋で庭が埋め尽くされてしまっているのでは、と心配になります。
***
本日の歌会の田宮さん語録「松村さんを見るのも大事」 逢坂みずき
これは歌会での一コマで、ある場所で松村さんを見ていたという内容の歌が提出されてあり、評を当てられて「どうして作者はここで松村さんを見ているのでしょう。松村さんの顔を見るのも大事ですけど~」というような文脈での発言でした。
本来の目的ではない対象を見ていたというのが元歌のおもしろさであり、この歌もこうしてネタバラシせず謎語録のままの方がおもしろいのだろうと思いつつ。また、どちらの歌も人名が違っていたら味わいも違ったものになりそうです。それにしても歌会も自粛となった今ではなにかとても懐かしいです。
***
2019年特別作品年間優秀作の優秀作に、12月号掲載の「めそめそ」を選んでいただきました。ありがとうございます!
また、選歌欄評も今号に限らず取り上げていただいていて、とてもうれしいです。まとめてで恐縮ですが、お礼申し上げます。
106歳のテルコさん召されテレビ横の定席大きな空間となる さつきいつか
特別作品の「アタラナイヨ」から。テルコさんが大柄な体格だった、というわけでなく、存在感の大きさでしょう。テレビ好きというキャラクター性、また年齢や個人名にも実感があります。
色浅き南天の実に雨粒のひと粒ひと粒空を映しぬ 戸田明美
とても丁寧な観察眼を見倣いたく思いました。若い南天の実に落ちた雨粒に映る、雨上がりの青空。「空を映しぬ」だから主語は雨粒なのでしょうか、おもしろいです。
菊の紋の煙草を父は賜りき 瀬戸の風吹くみかん畑山 田中ミハル
恩賜のたばこも今は昔。健康増進法の制定によって廃止された今でも、お父様の誇りの品なのでしょう。今みかん畑山には煙草の煙ではなく風が吹くのです。
頻繁に猫に会ふから猫道と名づけて今日も抜ける猫道 濱松哲朗
「猫」の字が3回も出てきて、猫に頻繁に会う様子が字面に表れています。同様に「猫道」と繰り返すことで、何度も往来している様が伝わります。楽しい名付けです。
また会いたいなって気持ちはほんとうでぬるい炬燵に賀状を書けり 魚谷真梨子
また会いましょう、は年賀状の定型文。とはいえ本当に会いたくて書いています、わたしも。上の句の句またがりに感情がにじんでいるようです。
坂の下の穭田の畔に腰かけて娘の車の来るを待ちおり 白井陽子
上から下へ素直に流れる歌の作りで、懐かしいような映像が浮かびます。また、家と田の距離や母子関係など31文字以上の物語を感じました。
飲んで泣き泣いては飲んでされど九時過ぎれば飲まぬ泣きはすれども 石橋泰奈
わたしは飲めないのでこの感じを正しく理解できている自信がないのですが、九時という明確な時間できっかりお酒を切り上げる妙な自制がおもしろいです。
エビちゃんを主婦の雑誌で見ておりぬ誰もきょうより若くはならない 淵脇千絵
OLのアイコン的存在だったエビちゃんも今や主婦。かつてOL向け雑誌を読んでいたのが今は主婦雑誌を読むように、作者もエビちゃんと同様に年を重ねるという感慨でしょう。。
葉を散らすことも花咲くこともない電信柱を染める秋の陽 吉原真
「ない」とあえて詠うことで葉や花をつけた電信柱の絵が浮かびます。生物のような電信柱を想像するとメルヘンチックな気分になりました。
京町屋改装したる私塾ゆえ開講の夜にともる提灯 仲町六絵
なんて趣のある私塾でしょう。文化や歴史を大切にする心が伝わります。提灯に焦点を当てたのがいいなと思いました。
子の巣立つたびに実家に犬はふえ父の庭には犬小屋六棟 百崎謙
お父様の寂しさの伝わる歌ですが、「犬小屋六棟」に笑ってしまう。六人巣立ったのでしょうか。犬小屋で庭が埋め尽くされてしまっているのでは、と心配になります。
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本日の歌会の田宮さん語録「松村さんを見るのも大事」 逢坂みずき
これは歌会での一コマで、ある場所で松村さんを見ていたという内容の歌が提出されてあり、評を当てられて「どうして作者はここで松村さんを見ているのでしょう。松村さんの顔を見るのも大事ですけど~」というような文脈での発言でした。
本来の目的ではない対象を見ていたというのが元歌のおもしろさであり、この歌もこうしてネタバラシせず謎語録のままの方がおもしろいのだろうと思いつつ。また、どちらの歌も人名が違っていたら味わいも違ったものになりそうです。それにしても歌会も自粛となった今ではなにかとても懐かしいです。
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2019年特別作品年間優秀作の優秀作に、12月号掲載の「めそめそ」を選んでいただきました。ありがとうございます!
また、選歌欄評も今号に限らず取り上げていただいていて、とてもうれしいです。まとめてで恐縮ですが、お礼申し上げます。
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短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)
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tomomita★sage.ocn.ne.jp
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