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川が好き。山も好き。
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塔4月号が届く前に、塔2月号を読みます。塔3月号も読み終えております。敬称略です。

  餅負いてひ孫一歳誕生日ばあばも負けずにうんとこどっこい  青井せつ子
 
 一升餅のお祝いをあたたかく見守る光景でしょうか。なんだかとても元気な気持ちになりました。声に出して読むとなお楽しいです。

  山形のおいしいお米「つや姫」を三合炊いて四度の食事  矢野正二郎

 一読して、前は三合で三度食べていたのが食が細くなった、と思ったのですが、計算したら三合を4で割ったら250gなので中盛ぐらいでした。やっぱり具体的な数字が良くて、四人分じゃなくて四度というところにも暮らしぶりが表れています。

  首里城を通勤の励みにしていたと電話に語るその声低し  樺澤ミワ

 首里城の歌が今号にたくさんあった中で、「通勤の励みにしていた」というのに惹かれました。仕事でいろいろなことがあっても、いつも変わらずそこに首里城があったのでしょう。

  転院の待合室に差し込める初冬の光を母はよろこぶ  萩尾マリ子

 一連の歌からお母様の病状は思わしくない様子。そうした中でのささやかなよろこび。待合室という、束の間の滞在の場所であることもなにか胸に迫るものがあります。

  信仰を勧める人にムスリムと偽り伝ふを夜半に悔いをり  山下太吉

 相手を諦めさせるため実際の信仰ではなくムスリムと偽る、迷惑な勧誘撃退として適当な嘘を吐くのはよくある話ですが、結句に人柄が表れていて、この結句で歌がより深まっていると感じました。

  父に妻、母に夫ありわたしにも夫や子どもがいればよかった  永田愛

 自分語りになりますが、結婚したいと言うと男を欲しがっている、飢えていると解釈されることがあり、そういう意味じゃないのになあと思いつつその違和感をうまく伝えられなかったのですが、この歌のようなことが言いたかったのだ、と気づかされました。口語の素直な文体と過去形の結句がせつないです。

  陰口を拒めないままテーブルのアクアパッツァは冷めきっていて  中井スピカ

 ああこれは女子会でしょうか、そこにいない人の相手の話題で誰かがトークショー始めちゃってもう止まらない感じ。ここで流れを変えようとしても水を差すみたいになって変な空気になるので、冷めてゆくオシャレ料理にも手を付けられないのです。

  青空が清々しいと思えるまで軽くなりたり座骨神経痛  石田俊子

 結句の具体名に力を感じました。そうきたか、というような意外性とか、病名の字面が詰まっているのですごく辛そうで、見た目的にも上の句に解放感があるような気がします。

  悪しきものすべて除くと思わねどここは本宮湯の峰温泉  北山順子

 湯治の一連から。祈りの気持ちが伝わってきます。温泉の具体名がいいと思いました。下の句は思わずデューク・エイセスの「いい湯だな」のメロディに乗せて読みたくなります。

  産休で七人休めば独り身の吾娘の帰りは深夜に及ぶ  弟子丸直美

 こういう時の気持ちを本人は言葉にしにくいから、こうしてお母様が気にかけてくれてよかった、と救われました。誰かが悪いわけではないから、おめでたいことだから、どんなにボロボロに疲れても何も言えない、まして独身の立場では。事実のみの描写に徹したのがとてもいいと思いました。

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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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