川が好き。山も好き。
わたしの部屋がこんなに散らかっているのは本のせいだと決め込み、思い切って大きな本棚を買いました。組み立て式の本棚が自宅に届き、これでやっとスッキリするぞ、と期待しました。が、思わぬ落とし穴がありました。「必ず二人以上で作業してください」と、説明書に太字で注意書きがありました。
こういう時にわたしにも兄がいたらよかったんだろうか。と、考えたのは昔の元同僚さんが「何か困ったことがあるとお兄ちゃんを呼んでる。いつでも夜中でも駆けつけて来てくれる」と言っていたのを思い出したからです。
デートをしていたら親が付いてきたとか、外泊したら警察に失踪届を出されたとか、許しを得られなかったので家出をして一人暮らしを強行したとか、その人の家族の過保護ぶりは雑談の時の定番ネタでした。割と放任主義で家を出ることを望まれて一人暮らしになったわたしは、まるで別世界の話のように聞きながら、「愛されてるね」と何度も相槌を打ったものです。
生育環境の違いは思わぬ時に影響を及ぼします。震災の翌朝、わたしとその当時の同僚さんは、それぞれ別の人に車で自宅に送られることとなりました。わたしは自宅アパートの前で降ろしてもらい、めちゃめちゃになった部屋を一人で片付け、トイレを借りに役所に行ったり来たりしつつ、夜は避難所に行って冷たい床の上で眠りました。
同じくらいの年齢で同じ時間に同じように同じ場所を出発した同僚さんは、その後を同じようには過ごしていませんでした。自宅アパートまで送ってもらった後、送ってくれた人が部屋の中まで片付けてくれ、こんなところに置いてゆけないと心配され、みんなと一緒の所へ引き返していたのでした。
片づけを手伝ってほしいと頼んだのか、自主的に世話したのか、詳しい話は聞いていません。この際どちらでも同じようなものでしょう。それぞれの送ってくれた人の人柄の違いや相性もあるでしょう。けれども、組み合わせが逆だったとしても結局わたしは一人で避難所に行く流れになる気がしました。愛されて育った人特有の可愛げだとか素直さだとか守ってあげたくなるような雰囲気だとかそういうものがわたしには足りなくて、そうした人格形成の差がこういう非常時に運命を分けるのだ、と知りました。尤も、大きな被害に遭った人がたくさんいる中で、わたしの個人的な小さな衝撃なんて些細なことに過ぎません。命が助かっただけでもう充分にわたしは幸運な側にいるのでした。
本棚は一人で組み立てました。一人の腕の力では重くて持ち上げられなかった物も、腰を下げて肩に担ぎ、背負うようにすれば、どうにかなんとかなりました。自分の身長より高くなった本棚に、床いっぱいの本を収めてゆきました。ずっとこんなふうに生きてきたし、ずっとこんなふうに生きてゆくのかと思いました。窓の外はすっかり夜になっていました。
「たすけて」とときどき叫びたいけれどあの日のようにまたがまんする
こういう時にわたしにも兄がいたらよかったんだろうか。と、考えたのは昔の元同僚さんが「何か困ったことがあるとお兄ちゃんを呼んでる。いつでも夜中でも駆けつけて来てくれる」と言っていたのを思い出したからです。
デートをしていたら親が付いてきたとか、外泊したら警察に失踪届を出されたとか、許しを得られなかったので家出をして一人暮らしを強行したとか、その人の家族の過保護ぶりは雑談の時の定番ネタでした。割と放任主義で家を出ることを望まれて一人暮らしになったわたしは、まるで別世界の話のように聞きながら、「愛されてるね」と何度も相槌を打ったものです。
生育環境の違いは思わぬ時に影響を及ぼします。震災の翌朝、わたしとその当時の同僚さんは、それぞれ別の人に車で自宅に送られることとなりました。わたしは自宅アパートの前で降ろしてもらい、めちゃめちゃになった部屋を一人で片付け、トイレを借りに役所に行ったり来たりしつつ、夜は避難所に行って冷たい床の上で眠りました。
同じくらいの年齢で同じ時間に同じように同じ場所を出発した同僚さんは、その後を同じようには過ごしていませんでした。自宅アパートまで送ってもらった後、送ってくれた人が部屋の中まで片付けてくれ、こんなところに置いてゆけないと心配され、みんなと一緒の所へ引き返していたのでした。
片づけを手伝ってほしいと頼んだのか、自主的に世話したのか、詳しい話は聞いていません。この際どちらでも同じようなものでしょう。それぞれの送ってくれた人の人柄の違いや相性もあるでしょう。けれども、組み合わせが逆だったとしても結局わたしは一人で避難所に行く流れになる気がしました。愛されて育った人特有の可愛げだとか素直さだとか守ってあげたくなるような雰囲気だとかそういうものがわたしには足りなくて、そうした人格形成の差がこういう非常時に運命を分けるのだ、と知りました。尤も、大きな被害に遭った人がたくさんいる中で、わたしの個人的な小さな衝撃なんて些細なことに過ぎません。命が助かっただけでもう充分にわたしは幸運な側にいるのでした。
本棚は一人で組み立てました。一人の腕の力では重くて持ち上げられなかった物も、腰を下げて肩に担ぎ、背負うようにすれば、どうにかなんとかなりました。自分の身長より高くなった本棚に、床いっぱいの本を収めてゆきました。ずっとこんなふうに生きてきたし、ずっとこんなふうに生きてゆくのかと思いました。窓の外はすっかり夜になっていました。
「たすけて」とときどき叫びたいけれどあの日のようにまたがまんする
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歌集『にず』(2020年/現代短歌社/本体¥2000)
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