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川が好き。山も好き。
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9月号を読みます。敬称略です。

  ひたぶるに鍬を振りゐる友の見ゆ手さへ揚げずて今日は離りき  尾形貢

 「今日は」なのでいつもは挨拶してお話に興じたりするのでしょうか。手を上げるのも躊躇われるほどの農作業の様子が目に浮かぶようです。

  雨の日は畑に出でず機を折る母にとっては休息なりき  大久保明

 機を織ることが休息だという心根に胸を打たれる。根っからの働き者のお母様なのでしょう。余談ですがわたしの母は家で祖母と居るのが嫌で畑に出てゆきます。

  母、舅、見知らぬ老女となるにつれ私の声は遠くてやさしい  佐原亜子

 この下の句はわかる気がする。心を離れてよそ行きの声になってゆく自分の声、「やさしい」と自分で言えるのも客観的な視線を自分に向けているからなのでしょう。

  歌会への途中に大蒜出荷して市民プラザの会場に着く  別府紘

 歌会へ行くついでに市場へ寄る、というのが有意義な一日でいいなと思いました。一つ前に<大蒜を五袋荷せば賄える塔今月の歌会の会費>という歌があるのもおもしろくて。歌会に出るお金がないので大蒜を売ったわけではないのでしょうけれど。

  小さき服用意して待つ日々の中振り返ること少なくなりぬ  魚谷真梨子

 過去に目が向くのはあまり心の状態が良くない時らしいので、これはすごく健康なことなんじゃないかなあと思いつつ、振り返る暇もないくらいに前へ進むしかない日々というのも伝わります、小さき服。

 コンビニでチキンをひとつ買うほどの値段なり旬の飛魚の五尾入り  株本佳代子

 タンパク質を摂取するとしたら、やっぱりここは旬のものをいただきたい。しかも旬のものは安い。数字の対比もわかりやすいし、カタカナの無機質な印象に比べれば「飛魚」の字の躍動感のなんて美味しそうなことか。

  子のなくば「ばあば」と呼ばれる筋はなく和佳ちゃんあなたは私の友達  大谷静子

  有紗にはおばあちゃんはいないと言う ばあばと呼ばれる吾は友達か  日比野美重子 

 この二首はそっくりなのですが、立場が違って内容が真逆なのが興味深いです。和佳ちゃんはある年代の女性をみんな「ばあば」と呼んでしまうのでしょうか。有紗ちゃんは「おばあちゃん」という続柄がまだわかっていないのでしょうか。どちらにしても無邪気で愛らしい。

  駅を出て徒歩七分とう歌会に信号待ちを二回して着く  須山佳代子

 そのままの歌なのでしょうけれど、こういう何気ないところで立ち止まって歌に詠めるのがいいなあと思うのです。七分という微妙さは五分以上はかかるけど十分はかからないかな~ぐらいの設定なのでしょう、おそらく信号待ちの時間は含まずに。

  藤棚の下で安らぐ老人に添い寝している村上春樹  山田精子

 作家の村上春樹氏が老人にぴったり添い寝している光景を思い浮かべてシュールな気分になりましたが、人ではなく村上春樹氏の著書が読みかけのまま置かれている状態か、あるいは幻が見えたのか、想像が広がります。

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おとも
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女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
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