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川が好き。山も好き。
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連休中も普通に仕事をしています。塔3月号を読みましょう。敬称略です。

  右端の山の名を問ふ寺の庭の松の手入れをしてゐる人に  山口泰子

 何か深い意味があるとかではなくて、この通りのそれだけの歌なのだろうと思うのですが、こういう何でもないような何気ない歌にとても惹かれるのです。山の名がこの歌では明かされていないのも良くて。

  みどり児のあまた写れるその中のひとつを拡大してわれに見す  黒沢梓

 普通の写真だったら「この子」と指を差しても小さくて見えなかったりするのでしょうけれど、「拡大」なので、スマートフォンの中の、お子さんまたはお孫さんの画像を見せてもらったのでしょう。無駄のない言葉選びで事実だけを描写しながら、いろいろ考えさせられる歌です。

  水仙の葉だけ茂るという人に花をさしあげ柚子もらいたり  菊澤宏美

 わらしべ長者みたいで楽しい歌。水仙の花が咲かず葉だけ茂ってしまう状態も、当人は困っているのかもしれないけれど妙にほほ笑ましい。お返しに柚子というのにも人柄がにじみ出ていていいなと思うのでした。

  芋を掘る我らの為に前の日に夫は葉や茎片付けに行く  高松恵美子

 少し前に「名もなき家事」というような言葉が流行ったようですが、こういう作業は「名もなき農作業」だと思いました。作者がこうしてちゃんと見ていてくれることで旦那様も報われましょう。わたしの父は稲刈りの前に稲の中のねこじゃらしを片付けに行きます。

  力抜き撞く鐘の音の良く響く鐘も力を抜いたのだろう  西村清子

 確かに、撞木を引く時は力を入れますが撞く時には力が抜けています。そして鐘の音は大きく響きますが1/fゆらぎの周波数で癒し系。鐘も力を抜いたのだろうという大胆な擬人化もなんだか納得してしまいそうです。

  告知より三度目の秋巡り来ぬモミジバフウにモミジバフウの実  石川泊子

 下の句がなんだかとても胸に沁みる。モミジバフウの木にモミジバフウの実が生るという、その当たり前の光景も特別なものに見えるのかもしれません。お大事されますように。

  家内のね郷里なもんでと言い馴れて四十五年を住んでしまえり  石川大三
 
 不本意な居住だったのでしょうか。「~のね」という初句は字数合わせのようで拙く感じがちなのですが、この歌は語りかけの味わいが出ていて効いていると思いました。言い訳のようですが、すっかり馴染んでいるようです。

  ベビーカーに見上げる赤いものは花ふれているのはその葉っぱだよ  宮脇泉

 情景が目に浮かぶようです。花の赤と葉の緑、野外と思われるので空の青と色彩もさわやかで、花を見上げる位置に赤子が居るという位置関係の丁寧さもいいなと思うのでした。そして結句の口語の語りかけが優しい。

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プロフィール
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おとも
性別:
女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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