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川が好き。山も好き。
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もう10月ですが、8月号を読みます。敬称略。

  じいちゃんと二人連れなる少女なり宿の浴衣が左前だよ  小島美智子

 一緒に旅行するおじいちゃんとお孫さん、というだけでほほ笑ましい光景ですが、少女はまだ着付けの知識がなく、おじいちゃんは無頓着でおおらかなのでしょう。上の句の文語調に対して下の句は口語調ですが、二人を優しく見つめる作者の心の声のようで効果的です。

  メールでは十時と約束せし君の現れぬまま春は過ぎゆく  西川照代

 メールで詳細に交わしたはずの約束の叶わなかった喪失感が、季節の変わりゆくまで続いているのでしょう。ドタキャンからの音信不通は現実的には不誠実ですが、「十時」から「春」への大胆な時間の飛躍によって、「君」がまるで春と共に去って行ったというお伽話のような読後感です。

  自らを父ちゃんと呼ぶ父をりて子よりも先にタンポポ飛ばす  越智ひとみ

「パパ」「お父さん」など呼び方はいろいろある中で、「父ちゃん」という一人称を選ぶ父親のキャラクター性。タンポポ(綿毛?)を飛ばすのも、子に見本を見せているより、自分が楽しんでいるような少年ぽさを感じます。そして、よく考えたらわたしは親を「父ちゃん」と呼んでいる人すらを実際に見たことがないです。

  夫のこともっと歌って押しつけて読んでおいてもらえばよかった  今井眞知子

 率直な思いの一首。詠える時に詠って、伝えられる時に伝えておけばよかった、そんな後悔の強さ、どうにもならない心が破調にも表れているようです。

  菜の花の黄のポスターを眺めつつ五月の餅の行列に着く  菊井直子

「五月の餅の行列」が良いです。具体的な固有名詞を出さないことで、かえって想像がふくらみ、韻律の良さも相まってとても楽しげです。菜の花の名所の観光地でしょうか。「の」のくり返しに軽やかな足取りが感じられます。

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おとも
性別:
女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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