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川が好き。山も好き。
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 会社を早退した。今年はそんなこともなくてこの調子を保つつもりだったのに。体調管理がなってない、と怒られた。ご飯はしっかり食べてたし、そこそこ眠ってた。この一週間、わたしの仕事の補助のパートさんがインフルエンザで休んでいた。普段二人でしている仕事を毎日一人でしなければならなかった。がんばろうと心では思っていても体がしんどくなっていった。
 わたしの仕事はごく少数体制で、休むことへの罪悪感が大きい。許容量以上を求められても「無理です」って言い出せなくて、がんばろうがんばろうってあからさまに調子の崩れるまで続けてしまい、最後には病人アピールのかまってちゃんみたいになってしまう自分がいやだ。疲れで涙目になって息の乱れてしまうのを「また始まった、ウザー」とか見られていると思う。ほんとうはそんな姿を人目にさらしたくはないのに。
 具合の悪くなるのがおかしい、役立たず。仕事をするというのはそういうことだってわかってる。責められれば言い訳みたいな言葉ばかりが飛び出してきて、自分が誰なのかわからなくなってしまう。わたしこんなんじゃなかったのに。つくづく、自分は扱いにくいめんどくさい人間なのだと思った、仕事もできなくて。
 
 会社を早退して(させられて)医院へ行った。数ヶ月前にも同じ症状で受診して、異常なし、続くようだったら一年後ぐらいに、と言われていたのだけれど会社に報告義務があった。医院は空いているようで、靴箱にヒョウ柄の派手な靴が一足あり、待合室には鮮やかな青いマタニティードレスの若い女性が座っていた。
 何度目かの診察とはいえ、慣れない痛みが体に残る。自宅への帰り、ヒメオドリコ草とオオイヌノフグリの道端に咲いているのが目に留まった。

  ゆるされることには慣れていないのでごめんなさいがいつも足りない

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 父が、犬の散歩と偽って家を出て外から電話をかけてきたと思ったら、次はトイレから、その次は地域のゴミ捨て場のプレハブからかけてきた。実の娘へ他愛ない電話をするのになにをコソコソする必要があるのか。

 かつて父は、仕事で建築途中の住宅に居たところを、近所の人から不審者と勘違いされて通報されてしまったことがある。外見も挙動もあやしいのだった。

  包装のビニルも花火と言いはって火をつける父を信じていた日

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最近、下の名前で呼ばれることの増えて、ちょっとうれしい。

 もうずっと、わたしは名字で呼ばれることの方が多かった。それは、ある程度の年齢になってからは誰でもそうだとも思う。特に、わたしは鈴木とか佐藤とかといったありふれた名字ではないため、クラス、あるいは職場、そのほか集団の中で誰かと被るようなこともなく、わざわざ名前で呼ぶという理由ができあがらない。それに、角ばった字面のわたしの名字は、わたしの印象に合っているような気もしている。
 それでも、そこに属している人達が下の名前で呼ばれているのに、わたしも名前で呼んでいるのに、わたしは名字呼びのままだったりすると、なにか壁を張られているような、たとえば今の名字が旧姓になる頃までなんか付き合いを続けるつもりはないよ、と言われてるような、ほんのり寂しい気持ちになってみたりしたものだった。
 もちろん、呼ぶ方はそこまで考えてない、ということは、わたしも呼ぶ方にまわるのだから、わかる。別に、たいした理由なんてない。発音しやすい方、周りの呼び方に合わせて、なんとなく、そんなもの。そんなふうに、わたしだって人を呼んでいる。

 久しぶりに下の名前で呼ばれて、うれしいな、と思った。うれしいな、と思う自分を思った。そんなふうに、わたしにずっと名字で呼ばれていた誰かもいたかもしれないと思った。

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「私の名前は月原加奈子。39歳。旅行会社に勤めている」

 土曜日の朝の楽しみは、通勤バスの中、ウォークマンでJFN『Sound Library~世界にひとつだけの本~』を聞くこと。木村多江さんの朗読で語られる、月原さんの等身大の日常は、おだやかで、ほんのりせつなくて。合間に挿入される楽曲も、物語に添って選曲されていて、知っている歌でもあらためて胸に届く。どこにでもいるようなごく普通の、真面目で、優しくて、ちょっと不器用な月原さんの日々が、丁寧に描かれているのがわかる。
 ポッドキャストでいつでも聞くことはできるけれども、やっぱり、土曜日の朝7時、仕事に向かうバスの中で聞くのがいい。隙間時間に短編小説を読み浸るような、贅沢な、優しいひと時。

 月原さんには、幸せになってほしいと思う。自然にそう思える、わたしの大好きなラジオ番組です。

公式サイト→http://www2.jfn.co.jp/library/


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拍手お返事はつづきからどうぞ。

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必要に迫られて、ワンピースを買った。少しフォーマルな機会だったので、今まで着たことのないようなデザインのものを、思い切って買ってみた。

 わたしは普段、変な格好をしている。好きでそうしているのではない。おしゃれをするということが、ものすごく恥ずかしいのだった。可愛い服を見ても、センスのいい着こなしを見ても、「こういうのはわたしとは違う人が着るものだわ」と思ってしまう。なんだろう、容姿に対するコンプレックスもあるし、多感な年頃におしゃれ心を母にからかわれたからというのもあるかもしれない。お化粧が得意ではないのも、そういった延長線上にある。わたしなんかがめかし込んでどうするの、そんな卑屈な気持ちがどうにも抜けない。恥ずかしい。
 
 あたらしいワンピースを着て、大ぶりなネックレスを付けて、髪を飾って、お化粧をして。こわいことなんてなにもなかった。どこもなにも浮いてなかった。写真も撮ってもらった。なあんだ、わたし普通の女の人じゃないか、って、ほっとした。ほっとして「結婚おめでとう」って言った。笑って言った。

  まっとうなおんなのごとくふるまえた後の安堵にパンスト放る

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プロフィール
HN:
おとも
性別:
女性
自己紹介:
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/本体¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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