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川が好き。山も好き。
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雪の降る二月は来なくていいからと父は告げたり病みたるときに  沢田麻佐子

名も知らぬ郵便屋さんがこんなにも嬉しい手紙を届けてくれぬ  村上和子

オオクラ村呼び名親しも関りのあらねど積む雪聞けば憂いぬ  大倉秀己

正吉も南吉も古き死者なれど語らるるたび太りゆくなり  出奈津子

大津京駅「京」と「駅」とに一羽ずつ鳩の止まりてまた一羽来る  小川和恵

妊娠と妊娠を知るまでの間に娘が灰にした煙草のいく箱  三浦こうこ

真に受ける若さのすでになけれどもマスクが似合うとふいに言われつ  朝井さとる

風の力にもちあげられてゆく髪の橋わたり終え髪もどりたり  花山周子

おばあさんに早くなりたいと思つてた二十歳のわたし若く寂しく  田中律子

五十年歌詠みつづけ遺せしはコピー紙を綴じたる歌集のみ  沼尻つた子

二回目の誕生日祝ひのハーモニカしばらく鳴らしやがて眠りぬ  岡部かずみ

われ宛の寄せ書きなべてみじかくてやさしさばかり褒められている  加瀬はる

病み上がりに食欲戻らぬ子が泣けりお前の海老を寄越せと泣けり  井上雅史

空海が杖で突けば出たお湯にあほらしいけど首まで浸かる  中山大三

「ばかやろう」今ごろ口を衝いて出て風呂場の壁に谺している  萩原璋子

「続きはこんど」と告げた絵本を読みなおすことは無かった おしまい  中山靖子

折り紙のゆびわ「左手の薬指」とおみな指定す緩和ケア病棟  平田瑞子

広い庭に畑を作れと大家さん勝手に鍬など持ち込んでくる  森祐子

母の罵声浴びて思わずありったけの抗不安薬を飲んでしまった  山上秋恵

この街に小さきデパートありしころ青き天馬にわれは乗りゐき  伊藤京子

足元が少し寒いなもう会わぬあいつの街はもっと寒いな  大橋春人

ぼた雪の風に捻られほんわかとここに落ちますよ長旅でしたよ  金原千栄子

あの椅子は座り心地がよかったな心療内科の青い肘掛け  田巻幸生

娘ゆえにか思いやりなき言葉吐く母をかなしく切なく思いぬ  岩淵令子

友の友の友の稼ぎを聞くあひだカルピスの氷はなべて溶けゐつ  篠野京

だんだんと歩けなくなってきてるから歩く姿を憶えていてね  中野敦子

店内のベンチにおればカート押し三度老女がわが前を過ぐ  川口秀晴

浮気性だった亡夫をしたたかに罵る母よ、そはわれの父  坂下俊郎

金のゴマ醤油入りパンを買ってきて私に勧める父のいる朝  佐原八重

誰だかが落とした一粒のフリスクも運ばれていく阪急梅田行 久野菜穂子

***

 敬称略。マルだらけになってきりがなくなってしまったので、今月号から選者の方々の歌は含めないことにしました。
 連作なのでなかなか一首単位で取り上げ難かったのだけど、特集の豊穣祭もとてもすてきでした。それにしても今月号は雪の歌が多かったですね。雪国だけでなく様々な地域の雪が詠われていて味わい深かったです。

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おとも
性別:
女性
自己紹介:
短歌とか映画とかこけしとか。
歌集『にず』(2020年/現代短歌社/¥2000)

連絡・問い合わせ:
tomomita★sage.ocn.ne.jp
(★を@に変えてお送りください)
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